天文・宇宙を語るを
知るための10冊
選定書籍一覧
(宮地 竹史・選)
国立天文台を退職したが、そのまま石垣島で暮らしている。理由の一つに、沖縄の星空の素晴らしさに魅了されていることがある。星空が美しいだけでなく、沖縄独特の星名があり、星に関する古謡や民話、伝承が数多く残っている。沖縄では、星が暮らしと深く関わってきたことが分かる。星文化と言えるものだ。
八重山諸島だけでなく、久米島や宮古島、本島北部やんばるにも出掛けている。南十字星や天の川だけではない沖縄でこその上等な美ら星が輝いており、飽きることなく眺めていられる。海と星空、森と星空が組み合わさって、癒やしの空間が広がっている。
沖縄に来るようになった2000年ごろから、「星空を観光資源にしよう」と言ってきたが、ここ数年の間に星空ガイドを取り入れたツアーなどが盛んに企画されるようになった。西表石垣国立公園内が国際的なNPO国際ダークスカイ協会から「星空保護区」に国内で初めて認定もされた。貴重な星空資源を守るためにも、夜の照明に工夫をして、無駄な明かりをなくし、星空を楽しみたい。
時々、星空観望会に招かれるが、終わった後に「いつも星空がきれいだと眺めていたが、星の名前を知り、お話を聞いて、さらに興味が湧いた」とよく言われる。星空や天文、宇宙に関わる本はたくさん出版されている。この10冊に限らず、まずは書店や図書館で手に取って読み始めてほしい。沖縄の県民歌「てぃんさぐぬ花」には、「むりぶし(群星、すばる)」「にぬふぁぶし(子方星、北極星)」の二つの星が謡い込まれている。県民の星空への関心の高さを感じる。一方、意外なことに『おもろさうし』には、星々が詠われた歌が少ない。大半は首里王を太陽としてたたえる歌である。

宮地 竹史 (みやじ・たけし)
1948年高知県生まれ。
石垣島天文台元所長、美ら星ガイド・アドバイザー。


2019年12月26日に、全国で部分日食が観察されたが、2020年の6月21日には台湾で金環食があり、沖縄では9割近く欠ける見応えのある部分日食となる。星の手帖社は、格安で内容の良い天文入門書を数多く出しているが、藤井旭『こども図鑑 太陽の観察』は、太陽を安全に見られる日食メガネ付きの解説書である。地球に最も近い恒星、太陽を、写真や図で解説しており、この機会に学ぶのはどうだろう。

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沖縄で親しまれている身近なもう一つの天体は月である。高橋順子『月の名前』は、題名通り日本中で古くから使われ呼ばれてきた「月の名前」が美しい写真と共に紹介されている。竹富島では月をめでる十五夜祭(じゅんぐやー)が続いている。「ふちゃぎ」の餅を供えて祝い、島の三地区から旗頭が出るが、先頭の「あいのた(東の村)」の太陽頭(てぃだかちら)には、太陽と7個の星「むりかぶし」が飾られ、島の繁栄を祈っており、興味深い。中
秋の名月が、必ずしも満月ではないことが話題になっているが、1966年までの中秋の名月と満月の関係が表になっている。

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星空観察の入門書、解説書は数多くあるが、縣秀彦『星空の見方がわかる本』は、さすが全国各地を天文学の教育や広報普及で奔走している筆者だけあって、これ1冊で星座や天文に関する知識、観察の仕方まで教えてくれる。

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天文に関する質問で多いのは「宇宙は膨張してどうなるのか」「宇宙人はいるのか」などである。谷口義明『天の川が消える日』では、宇宙の行く末を心配する前に、私たちの銀河系「天の川」が40億年後にアンドロメダ銀河と衝突するという。銀河の研究分野では第一人者の筆者が、研究成果をやさしく説明しながら、われわれがこの時代の宇宙に生きていることが、なんと幸せなことかと教えてくれる。

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森本雅樹らの『科学者たちのまじめな宇宙人探し』は、電波天文学が発展する中、宇宙のどこかにいる宇宙人との交信を真面目に科学的に研究する話だ。実際に電波を使ってメッセージを送ることまでやった、宇宙人探しの原点を知る1冊だ。

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さて近年、再びプラネタリウムの人気が高まっている。投影機のデジタル化や、解説もギリシャ神話によらず、各地の星に関する民話を紹介するなど、独自の番組を制作し、生解説するようになったからだ。沖縄では、海洋博公園の海洋文化館、牧志駅前ほしぞら公民館、石垣市離島ターミナルにある。
ぜひ一度出掛けてほしい。
2009年が、ガリレオが望遠鏡で宇宙を見て400年になるということで、国連教育科学文化機関(ユネスコ)などが「世界天文年」と決めた。日本では、東アジアの国々と一緒に、自国の星に関する民話や伝承を集めようというプロジェクトを立ち上げた。研究会は星文化の国際交流の場となった。アジア13カ国の国と地域から68話が集まり、できたのが海部宣男監修『アジアの星物語』である。日本からの4編の一つに、私は沖縄の「むりかぶしゆんた」の由来を入れさせてもらった。人気の本で、入手が困難になっているが、多くの図書館に所蔵されているので借りて読める。

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このプロジェクトのメンバーである北尾浩一『日本の星名事典』は、日本各地を歩き、その地域に残る星名を収集し、まとめた本である。野尻抱影の『日本星名辞典』以来の大作である。こんな名前も付けられていたのかと驚く。

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星空への誘いは、解説書だけではない。文学書からも星空への興味は尽きない。
星の童話で世界的に有名な本が、サン=テグジュペリ『星の王子さま』である。内藤濯の子供向け訳が広く読まれてきたが、倉橋由美子訳もお薦めしたい。2005 年に宝島社から出版され、話題になったが、今回文庫本で再刊された。フランス文学者である倉橋が多国語訳も参考にしつつ、フランス語の意味を忠実に解釈し大人向けに訳した。大人になっても、「かんじんなことは目に見えない」ことの大切さを感じたい。

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日本の童話といえば、宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』になる。この物語に出てくる星のすべて、北十字からサウザンクロス(南十字星)まで見える沖縄で、夏の美しい天の川を見直し、「本当の幸い」を見つけてほしい。

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最後に紹介するのは、ポール・ボガード『本当の夜をさがして』だ。西表石垣国立公園が「星空保護区(暫定)」として認定されたが、条件をクリアする暗闇が、なお求められている。この本では、長年にわたって、夜を明るくすることで健康や人間性が失われてきたこと、光害の深刻さを訴えている。星空が見える「本当の夜」を取り戻すことの重要性を示し、世界各地で行われている地道な活動を紹介している。

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