沖縄の昆虫を知るための
10冊
選定書籍一覧
(宮城 秋乃・選)
小さな島々から成り立っている沖縄。地形や地質などの違いによりさまざまな環境が生み出されたため多種の昆虫たちがすみ着くことが可能となり、また、海によって隔離されているためにそれぞれの島の生物が独自の進化を遂げた。昔は沖縄本島の多くの地域が森林に覆われていたが、戦争や開発などで中南部の森が減ったため、北部に残った森はより貴重なものとなった。
世界の中で沖縄はとても小さく、その中に残った自然豊かな地域はさらにほんの一部でしかない。大陸と違い小さな島では逃げ場がないため、人にとって小さな環境破壊に思えても昆虫たちへの影響は大きく、種によっては絶滅を促進させてしまうこともある。沖縄の昆虫には絶滅危惧種・準絶滅危惧種が多く含まれている。沖縄の生物多様性が豊かであることは広く知られており、奄美大島や徳之島とともに、沖縄島北部と西表島は政府によって世界自然遺産登録が推薦されているが、そこにすむ昆虫たちの命やすみかが脅かされている現状をまだ多くの人が知らない。
解説
沖縄では現在も昆虫の新知見が発見され続けているので、それらがすむ森も生態的・学術的に重要であることが分かる。沖縄の昆虫もそれを取り巻く環境もまだまだ秘密だらけである。今後もさまざまな視点から作られた沖縄の昆虫に関する本が誕生するであろう。レイチェル・カーソン氏は『「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない』と言った。昆虫たちについて知ることも重要だが、想像力を膨らませてその命にまで興味を持つことができれば、昆虫たちの身に迫っている危機に気付くことができる。

宮城 秋乃 (みやぎ・あきの)
チョウ類研究者。
北中城村あやかりの杜 非常勤講師(昆虫教室)。
日本蝶類学会会員・日本鱗翅学会会員。

昆虫について詳しく知りたい時、基本的な生物用語を知っていると昆虫をより理解することができる。『沖縄の身近な昆虫図鑑』は、種を同定する図鑑としての機能だけでなく、それぞれの種の生態説明がなされ、その中で用いられている重要な生物用語は太字で示しながら解説されているため、生物学に易しく触れることができる。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

昆虫の話と、それらが生息する環境の話は切り離せない。『琉球列島の自然講座 サンゴ礁・島の生き物たち・自然環境』では、サンゴ礁やチョウなどを挙げて、琉球列島の独自の生態系について紹介している。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『海・山・川のおくりもの 目からウロコの大生き物展!』では、琉球列島を中心とした生き物たちの興味深い話を短い文章で多数紹介しており、沖縄の生物多様性について知ることができる。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

小さな島々に分かれている沖縄では、それぞれの島の自然を紹介する本も多数ある。例えば、『うるま市立資料館ガイドブック2 浜比嘉島の昆虫』では、2013年の約1年間に調べた昆虫たちについて、新知見を含む生態を多くの生態写真を用いて紹介している。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

野外で昆虫を観察したり持ち帰った昆虫について調べたりする時はインターネットで調べる方法もあるが、誤った情報も掲載されているため、信頼できる責任者が管理するサイトを参考とするか、紙の図鑑をお薦めする。『昆虫の図鑑 採集と標本の作り方』は九州・沖縄の身近な昆虫の標本写真が2542種掲載されており、持ち運びやすいサイズでもあることから、野外でさまざまな目(もく)に属する種を同定するのに便利である。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

目などに限定した図鑑もある。『生態写真で見る沖縄の蝶』は、チョウの成虫だけでなく幼虫やサナギなどの幼生期の生態も野外写真で紹介され、それぞれの種の生態も短い文章で紹介されている。標本写真は添付されておらず写真集に近い本だが、チョウの種の同定には十分使える。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

近年は昆虫の図鑑が多く出版され、専門性の高い高価格帯図鑑のほか、持ち運びやすいサイズや手に取りやすい価格のものも多くみられる。白い背景に生体を置いて撮影した写真で昆虫の体の特徴を見やすくしたものや、すべての種を野外で撮影した生態写真で紹介するものなど、個性豊かである。例えば、『沖縄のトンボ図鑑』では、標本写真だけでなく、撮影の難しい野外生態写真で沖縄に住む全種のトンボを紹介しています。産卵などの貴重な場面が収められており、写真も美しいため、写真集としても楽しむことができる。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

昆虫には人気のあるグループとそうでないグループがある。子どもたちにはなんといってもカブトムシやクワガタムシが人気である。『沖縄の自然シリーズ 沖縄のクワガタムシ』では、沖縄にすむクワガタムシ全種について、詳細に生態を解説している。同シリーズにはほかに、カブトムシ、セミ、鳴く虫、カエルがあり、沖縄にすむ生き物について詳しくなることで自然を身近に感じることができるだろう。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『レッテルを貼られたムシたち あなたのとなりの生き物』では、昆虫やクモなど、沖縄の身近な場所で出合うけれど好感を持たれにくい生物たちの生態について、主にイラストを用いて紹介している。沖縄の生物といえばやんばるや離島に住む美しいものに目が行きがちだが、家屋やその周辺で出会う見た目の美しくないとされる生物たちも生態系のなかでは重要な存在であったり、よく見かけるのに実は外来種であったりなど、興味深い生態を知ることによって彼らを見る目が少し変わるかもしれない。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

やんばるの森の豊かさが認められ世界自然遺産の候補地となり、政府や自治体、企業により多くの登録推進キャンペーンが行われ、森の美しさなど良いところばかりが大きくアピールされている。しかし、その森で政府と米軍による米軍ヘリパッド建設や米軍機の頻繁な飛行の被害に合っている生物たちについて言及するものは少なく、昆虫研究者や昆虫写真家までもが目をそらしているのが現状である。
『ぼくたち、ここにいるよ 高江の森の小さないのち』では、森の中でひっそりと生活する昆虫を中心とした生物たちの様子とともに、すでになかったことのように扱われている生物大虐殺と、今後ヘリパッド配置が存続する限り続く生物たちの被害を易しい言葉と多くの写真で訴えている。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます