沖縄の植物を知るための
10冊
選定書籍一覧
(横田 昌嗣・選)
沖縄を訪れる観光客のイメージでは、沖縄と言えばおそらく熱帯魚がたわむれるサンゴ礁の海を連想することが多いかも知れない。陸地の面積としては、日本全体の0.6%に過ぎないが、最東端の北大東島から最西端の与那国島までは約1000km、最北端の硫黄鳥島から最南端の波照間島までは約400kmの広大な海域に、50近くの有人島と100以上の無人島が点々と存在しているので、海に目が向いてしまうこともうなずける。ただ、沖縄は成り立ちや自然環境が異なる数多くの島々を含み、しかも様々な理由から生物相が豊かであり、そこに見られる陸域の生物は沖縄にだけ分布する固有種であったり、国内では沖縄にしか産しない希少な種であったりするものが数多く含まれている。
奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島が世界自然遺産の候補になって久しいが、これらの島々が世界自然遺産としての普遍的価値があると見なされたのは、これらが約1500万年の長きにわたって大陸や島々相互との分離・結合を繰り返してきた大陸島(かつて大陸と陸続きになったことのある島)で、侵入と隔離によって進化を遂げてきた多くの特色ある陸生動植物の生息地・生育地として重要であるためである。世界自然遺産になる・ならないだけに注目するのではなく、どうして世界レベルの価値があると考えられているのかについて、より深く学んでみてはいかがだろうか。
解説
沖縄に住み始めて、かれこれ36年が経とうとしている。無人島を含め、ほとんどの島々に訪れることができた。その間に、生物学の様々な分野は著しい進歩を遂げてきた。これまで仕組みや成り立ちが判らなかった複雑な生命現象が、分子のレベルで明らかにされるようになってきた。生物の進化や生態についても、分子生物学的な研究手法が取り入れられて、沖縄の生物がいつ頃、どこからやって来て、沖縄の環境に適応しながらどのように進化してきたかについて具体的に判るようになってきた。その一方で、人々の生活習慣が大きく変わり、身の回りの自然とは直接ふれあう機会が少なくなってきた。豊かに残されてきた自然の開発が大きく進み、かつては身近に見られた自然が簡単には接することができないものになりつつある。
沖縄の生物相と生態系は、幸いにもいろいろな要因が重なりあって、地球上でも実に特色のあるものだということが世界的にも認められつつあり、世界自然遺産の候補地ともなっている。ただ、沖縄の生物の戸籍調べは、ごく限られた生物についてのみ調べられてきたと言える。植物も動物も詳しく調べて見ると、どんどん新しい生きものや不思議な現象が見つかっている。まさに沖縄は、野生生物の研究テーマの宝庫と言える。その自然を守ってきた先人たちの努力を無駄にすることなく、後世に永く伝えていく必要がある。

横田 昌嗣 (よこた・まさつぐ)
1955年滋賀県大津市生まれ。広島大学理学部卒。
琉球大学理学部海洋自然科学科教授
著書
「沖縄の小さな植物」『沖縄の自然を知る』1997年、池原貞雄・加藤祐三編著 築地書館
「水辺の維管束植物」『琉球列島の陸水生物』2003年、西田睦・鹿谷法一・諸喜田茂光編 東海大学出版会他多数

沖縄の島々は、それぞれ違った自然環境や成り立ちの歴史を持っており、陸域に生育する植物は、共通する種もあるが、島々で少しずつ違う特徴を持っていたり、あるいは島ごとに全く異なる種が見られることがあり、沖縄の高い生物多様性の原因になっている。沖縄の島々の自然環境や、そこにすむ動植物の概要に関して最新の情報を知るには、『沖縄県史・各論編第1巻・自然環境』をお勧めする。県史というと堅苦しい公文書というイメージがあるが、写真や図が豊富に使われていて、見るだけでも楽しい。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

沖縄や近隣の奄美の島々の維管束植物にはどのようなものがあり、地球上のどの地域と最もつながりが深いかについては、『琉球の自然史』に初島住彦博士の解説がある。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『沖縄の自然を知る』や『南西諸島の生物多様性』にも、野生植物の進化の道筋や起源についての新しい情報が解説されているので、参考にして欲しい。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『沖縄の自然を知る』や『南西諸島の生物多様性』にも、野生植物の進化の道筋や起源についての新しい情報が解説されているので、参考にして欲しい。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

沖縄の島々には、足を踏み入れるのが困難な場所も多く、学術調査が十分に行われているとは言い難い。今なお、毎年新種や新記録種が見つかっている。陸生の沖縄の植物図鑑については、どれかひとつで事足りると言う資料がまだなくて、いろいろの図鑑や専門書を見ないと植物名が判らないということも多い。その中にあって、『琉球の樹木』は葉のシルエットだけで樹木の種類を見分けることを試みた意欲的な企画で、沖縄のほとんどすべての樹木が掲載されており、非常に参考になる。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『日本海草図譜』は潮間帯や浅海の砂泥地に生える海草を取り上げたもので、これまで情報が少なかったウミヒルモ類やウミジグサ類に多くの新種や日本新記録種が見つかっていることに驚かされる。急速に進む浅海の埋め立てなどでこれらの海草類が絶滅の危機に瀕していることを知ると、心が痛む。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『マングローブ生態系探検図鑑』は、マングローブの役割やマングローブを構成する種について知るにはうってつけである。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

沖縄の野生植物の約3割の種は、様々な要因により絶滅の危機に瀕している。市販はされていないが、沖縄県自然保護課のホームページで公開されている『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物、第3版(菌類編・植物編)-レッドデータおきなわ-』には、詳しい情報が紹介されている。絶滅の恐れのある野生生物について国内では最初に取り上げた『日本の絶滅危惧生物』には、絶滅の危機に瀕した動植物の紹介の他に、どうして野生生物を絶滅させてはならないのかという問いについて、要領よくまとめられているので、一読をお勧めする。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

テレビゲーム機やスマートフォンのゲームで夢中になる以前は、子どもたちは野山の動植物を使って遊んでいた。『おきなわ子供のあそび-植物編-』には、身近な植物を使って実に楽しく時間を過ごせることが示されている。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

子どもに限らず、都市化していく環境の中で大人たちも急激に自然との関わりが薄らぎ、かつて有用な資源としてきた植物の情報がどんどん失われている。『琉球列島植物方言集』に示される情報は、これからも大切に引き継いでいく必要があるだろう。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます