地域芸能を知るための
10冊
選定書籍一覧
(呉屋 淳子・選)
沖縄県立芸術大学では、2019年度より文化庁の「大学における文化芸術推進事業」の採択を得て、「今を生きる人々と育む地域芸能の未来」というプロジェクトを実施している。「民俗芸能」や「伝統芸能」といった既存の枠組みから離れ、「地域」という視点から、芸能の持続可能な継承を考えるプロジェクトだ。
伝統とは、そもそも変化しながら受け継がれるものである。芸能の継承に困難が生じているのであれば、歴史や伝承を踏まえながらも、従来の考えやイメージとは違うやり方や異なる関係性の結び方を、地域の中でそれぞれに試行錯誤することが必要ではないか。
「地域芸能」は、こうした柔軟で自立した芸能のあり方を可視化し、それを人々と共有するために考え出された概念である。ここでは、「地域芸能」という視点に立って、沖縄の豊かな芸能を支える文化を育んできた地域とそこで生活する人々の営みを捉え直すための10冊を紹介したい。

呉屋 淳子 (ごや・じゅんこ)
沖縄県立芸術大学音楽学部准教授。
専門は文化人類学。地域のなかで育まれてきた芸能の持続可能な継承のあり方を地域の人びとや行政、学校の関係者と共に考えるプロジェクト「地域芸能と歩む」の企画・運営を行う。著書に『「学校芸能」の民族誌―創造される八重山芸能』。


文化人類学は、「当たり前」を問い直す学問である。「民俗芸能」や「伝統芸能」について考える時も、その「当たり前」を問い直すことで未来への手がかりが見えてくるかもしれない。『うしろめたさの人類学』の著者松村圭一郎は、本書の中で構築人類学を提唱する。松村は、私たちを縛る「当たり前」が、実は歴史的・文化的に構築されたものであるという構築主義の考え方を紹介した上で、「ぼくらはそれをもう一度、いまと違う別の姿につくりかえることができる。そこに希望が芽生える」と語る。その希望が未来を作る「鍵」となるのだ。

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クリストファー・スモール『ミュージッキング―音楽は〈行為〉である』も、音楽の「当たり前」を問い直す1冊である。スモールは、音楽を「行為」や「活動」の中に捉え直す「ミュージッキング」の概念を提唱し、音楽の意味や機能を、演奏や作曲だけでなく、音楽という「出来事」を生み出すあらゆる人の行為の中に見いだしていく。その開かれた思考は、私たちが音楽とともに生きている意味を改めて考え直すことへと導いてくれるだろう。

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舞踊家しば正龍は、琉球古典舞踊家でもありながら、「舞踏」の領域でも自己の表現を掘り下げることで、自らの表現そのものを通して、沖縄において踊るということを問い直し続けた人である。彼の舞踊は、それに遭遇した人々にとって、まさに強烈な「出来事」として記憶に刻まれているに違いない。石川竜一の写真集『SHIBA 踊る惑星』は、そうした舞踊家しばの一瞬一瞬の姿を、「出来事」として鮮やかに写しとる。

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歌や芸能は、土地の生活や生業と密接に関わりながら、地域の中で大切に育まれてきたものだ。『沖縄の民謡―民謡緊急調査報告書』は、当時、失われつつあった民謡を記録するために、1981~1982年にかけて沖縄全島で行われた調査の記録である。ここに集録された民謡を人々の日々の生活の営みの記録として捉えてみれば、かつてそこにあった風景や人々の暮らしぶりが目の前に鮮やかに立ち現れてくるはずだ。

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塚田健一『エイサー物語―移動する人、伝播する芸能』、姜信子『ナミイ!八重山のおばあの歌物語』は、沖縄の人々が歌や芸能とともに歩んできた歴史=物語を描き出す。戦前から戦後、沖縄島から台湾へ、八重山から那覇の辻へ、そして沖縄島から八重山へ渡った人々がそれぞれの土地で歌や踊りを育んできた。塚田は島から島へと移動するエイサーの伝播過程をフィールドワークからひもとき、姜は歌と共に生きた一人の女性の人生をその魅力的な言葉を織り込みながら物語ることで、人々にとっての歌や芸能の意味を問い直す。

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塚田健一『エイサー物語―移動する人、伝播する芸能』、姜信子『ナミイ!八重山のおばあの歌物語』は、沖縄の人々が歌や芸能とともに歩んできた歴史=物語を描き出す。戦前から戦後、沖縄島から台湾へ、八重山から那覇の辻へ、そして沖縄島から八重山へ渡った人々がそれぞれの土地で歌や踊りを育んできた。塚田は島から島へと移動するエイサーの伝播過程をフィールドワークからひもとき、姜は歌と共に生きた一人の女性の人生をその魅力的な言葉を織り込みながら物語ることで、人々にとっての歌や芸能の意味を問い直す。

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歌や芸能と人との関わりを示す豊かなエピソードは、何も芸能に関する本ばかりに載っているわけではない。与那原恵『わたぶんぶん―わたしの「料理沖縄物語」』は、「沖縄料理」の記憶から「沖縄」を生きた人々をたどる1冊である。沖縄島だけでなく、東京、奄美、石垣、台湾、遠くはボリビアまで―おいしいものをめぐる記憶の側には、いつも歌や芸能を生きがいとする人々の人生の営みがあった。いずれもかつてあった人と歌・芸能、土地との関わりを想起し、過去との連続性から「いま」を捉えるための1冊となるだろう。

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「地域芸能」の持続可能な継承を考える時、その仕組みを見つめ直すことも必要だ。例えば、学校において盛んに芸能の学習が導入されているが、学校という「場」は文化を継承する上で、どのような役割や機能を担っているのか。拙著『「学校芸能」の民族誌―創造される八重山芸能』は、「真正性」を乗り越えながら、学校と地域の相互作用によって、「学校芸能」が地域の新しい芸能文化として根付いていくプロセスを描き出す。

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最後に、「地域芸能」の実践の場で「いま」どのような試みが行われているかを知ることのできるブックレットを紹介したい。一般社団法人与那国フォーラム『与那国島の「祭事芸能」をうけつぐBOOK』は、与那国島の「祭事芸能」の継承者を育てるために何ができるのかを、具体的な取り組みや展望を含めて提案する。冒頭に紹介した沖縄県立芸術大学の事業では、保存でも、活用でもない、第3の道として、芸能の持続可能な継承のモデルを模索している。

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その取り組みをまとめた『地域芸能と歩む2019-2020』も併せて手にとっていただければ幸いである。

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