観光を知るための
10冊
選定書籍一覧
(下地 芳郎・選)
デジタル時代に入り、観光情報収集手段はインターネットが主流になったが、旅行中にガイドブックを持っている観光客も多く見かける。沖縄県内書店にも沖縄の観光施設、体験、離島、飲食店、カフェ、ホテルなど多様なテーマに関するガイドブックや、沖縄観光の魅力を紹介する書籍が多数並べられている。また、レストランやショッピング情報などを盛り込んだフリーペーパーも充実しており、観光客はスマホと紙媒体を駆使して沖縄観光を楽しんでいる。
一方で、沖縄観光を歴史的な視点や産業、政策面から捉えた書籍はまだ少ない。沖縄観光はこの数年大きな成長を遂げているが、特に、海外航空路線の就航や大型クルーズ船寄港などによる外国人観光客の増加が顕著である。観光客1千万人時代を迎え、地域経済への貢献期待度が高まる一方で、物価高、交通渋滞、自然環境破壊、人手不足などの課題も顕在化しており、特に、宮古や八重山圏域では観光客受入対策が喫緊の課題となっている。アジアの経済発展を背景に現在は好調な沖縄観光だが、国家間紛争、気候変動による自然災害、景気低迷など懸念材料も多い。今回、沖縄観光のあり方を考えるうえで参考になる書籍を中心に紹介したい。
解説
持続可能な観光
現在、沖縄21世紀ビジョン基本計画に基づく各種施策の検証が行われており、観光分野についても今後のビジョンづくりに向けた議論が始まっている。今後は観光と県民生活との調和や長期的な経済発展につながるSDGs(持続可能な開発目標)などが重要なテーマになる。沖縄観光が大きく変化する中、持続可能な沖縄観光のあり方を示す「羅針盤」となる専門書の出版に期待したい。

下地 芳郎 (しもじ・よしろう)
1957年平良市(現宮古島市)生まれ。
一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー会長。
沖縄県庁勤務を経て2013年に琉球大学観光産業科学部教授。
専門は観光政策。2019年6月から現職。


『ラブ・オーシュリ他『青い目が見た「大琉球」』(1987年)』は、16世紀以降のヨーロッパによるアジア進出に伴い、琉球を訪れた欧米人が残した挿し絵や版画などを紹介している。特にバジル・ホール航海記やペリー提督遠征記から引用された絵には、琉球王国時代の首里や那覇など各地の自然豊かな風景や庶民の生活などが描かれている。

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沖縄が観光地として注目されたのは昭和に入ってからである。大阪商船が1932(昭和7年)に開始した大阪からの初の団体観光ツアーでは、波の上宮、識名園、辻、泡盛醸造所などを訪問しているが、ツアー案内文では当時の沖縄を「異文化のエキゾチックな地」と紹介していた。戦前に沖縄を訪れた日本の民芸運動者も、沖縄の独特な文化に注目していたが、日本を代表する思想家でもある柳宗悦は式場隆三郎編『琉球の文化』(1941年)のなかの一文「琉球の富」で、当時の首里を「自然と歴史と人文」の調和がとれた「日本で一番美しい城下町」と評価した。また、当時県内で進んでいた、沖縄語の使用を否定し全てを標準語に置き換えようとする動きを批判し、特色がある地方語を守ることの重要性も説いている。

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1975年に開催された沖縄国際海洋博覧会は、世界で初めて海をテーマに開催された国際博覧会である。『海―その望ましい未来 沖縄開催のあゆみ』(1976年)は、沖縄県が開催までの経緯や内容をまとめた記録集である。海洋博覧会は、沖縄の観光が海をテーマにして大きく発展するきっかけとなったが、終了後の観光客減少により沖縄経済は大きな打撃を受けた。

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海洋博覧会後の効果的な誘客対策と観光地整備の重要性などを考察したのが渡久地政夫『どうする!観光沖縄』(1976年)である。海洋博覧会開催に向けて一部のインフラ整備は進んだが、県内全域ではまだ観光地の整備は遅れており、沖縄観光の発展に必要な緑化、健全なナイトライフ、県民への啓蒙活動などを説いている。沖縄観光の自立化に向けた筆者の思いが伝わる一冊である。

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総合保養地域整備法(通称「リゾート法」1987年)により、全国的にリゾート開発が進んだが、バブル崩壊の影響もあり多くは失敗に終わった。三木健『リゾート開発―沖縄からの報告』(1990年)は、急激に進む県内のホテルやゴルフ場開発の状況や、開発で懸念される環境破壊や水不足などの課題を挙げている。地域住民の視点を重視した開発が重要であるとの指摘は、新たなホテル建設が多数計画されている現在の沖縄にもあてはまる。

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『沖縄の観光を考える百人委員会』(2000年)』は、沖縄観光コンベンションビューローが県内外の有識者や観光関係者で設置された委員会によるシンポジウムと提言をまとめたものである。委員会には本土側委員45名、沖縄側委員165名、計210名が参加しており、21世紀の沖縄観光の国際化や、アジア・太平洋地域における国際コンベンション都市を目指すうえで必要となる取り組みに関して議論が行われた。

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『拙著『沖縄観光進化論』(2012年)』は、琉球王国時代から現在に至るまでの沖縄観光の歴史と沖縄県の観光推進体制や予算推移、修学旅行、リゾートウエディング、観光危機管理などを中心に観光政策的視点から解説している。

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『宮里定三顕彰事業実行委員会『沖縄観光の父 宮里定三』(2016年)』)は、戦前、戦後を通じ沖縄観光を牽引し、現在の沖縄観光の基礎を築いた「沖縄ホテル」創設者宮里定三氏の歩みと功績を、県内の観光関係者がまとめた記念誌である。現在、広く普及している「かりゆしウエア」は、宮里氏を筆頭に県内観光業界関係者が中心となって、地道に活動を重ねた成果である。

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90年代後半の沖縄ブームと2000年の沖縄サミット開催により、国際的な観光地として知名度が上がった沖縄だが、2001年9月に発生した米国同時多発テロ事件以降、修学旅行を中心に一時沖縄への観光客は減少した。『観光再生「テロ」からの出発』(2002年)は、当時の沖縄県内の厳しい経済状況や沖縄県・観光業界等の緊急対策の推移に関して、沖縄タイムス紙に連載された記事を書籍にしたものである。

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矢部宏治『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド』(2011年)は、県内米軍基地28施設の概要、憲法と日米安保、基地周辺の観光スポットなどを紹介している。沖縄県は美しい海と独特な文化を有する「観光リゾート地」としての一面と、「米軍基地」の存在に起因する事件・事故などに苦しむ一面を有しており、沖縄への理解を深めるために観光客にも読んで欲しい一冊である。

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