沖縄の移民を知るための
10冊
解説
「ウチナーンチュ」という言葉が、日常語を超えて公的用語や学術語として定着してきた。これは、世界に広がる沖縄系移民の躍動の結果である。また、世界のウチナーンチュのたくましい存在感が、移民関連刊行物やマスメディア、各種イベントなどに大きな影響を及ぼした。これらを通した世界のウチナーンチュとの出会いは、沖縄在住の私たちに元気や勇気や喜びを与えてくれる。
世界のウチナーンチュ大会は、参加する者を感動させる。2011年のウチナーンチュ大会で与那嶺真次在ブラジル沖縄県人会長は、「ウチナーヌ島ヤグマサシガ、ウチナーヌ社会ヤマギサンドー」・「沖縄の島は小さいけれど、(世界に広がる)沖縄の社会は大きいぞ」と述べている。
日本語やウチナーグチは話せないけど、自分はウチナーンチュだというアメリカ人やブラジル人も多い。今後も世界の多様なウチナーンチュやその社会、それぞれのネットワークを考える中で沖縄の未来を探求していく必要がある。

町田 宗博 (まちだ・むねひろ)
1953年北谷村(現在は町)生まれ、コザ(現沖縄市)育ち。
琉球大学国際地域創造学部教授。
著書に『移動する沖縄の人々』(琉球大学編)、『融解する境界』(沖縄タイムス社)など。

ここでは、県や各市町村による移民関係出版物は割愛し、それ以外のものを取り上げた。
『移民は生きる』は、ハワイ2世として故郷沖縄に兵士として参戦した比嘉太郎によるものである。第2次世界大戦後の沖縄救済運動を中心にまとめられたものである。ハワイを中心としたものであるが、北米や南米の沖縄出身者も寄稿しており、ハワイ移民の記録映画『ハワイに生きる』が南米の各地で上映されていった経過や反響を知ることができる。本書には、故郷・沖縄に対する熱い思いや、世界各地に広がる沖縄移民の共感があふれている。ここに、今日につながるウチナーンチュネットワークの原形を読み取ることができよう。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『沖縄移民女性史』は、移民本人による体験記である。今日の市町村史に先駆けて刊行されていることは大変興味深い。刊行に併せて記録映画『ビバ!うちなあんちゅ』が製作されている。筆者はブラジルでウチナーンチュの付き合いを支えているのは、「オジーたちではなくてオバーたちだよ」と言われたことがある。女性に焦点を当てたウチナーンチュ社会の研究は、今後とも重要な課題である。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『眉屋私記』は、ヤンバルの屋部集落の屋号・眉屋に焦点を当てた作品である。著者は記録文学作家としてもよく知られ、資料調査や踏査によって歴史的、社会的状況の中での移民像が丹念に描き上げられている。同書に関連して山入端萬栄著『わが移民記』(琉球新報印刷課、1960年)や山入端つる著『三味線放浪記』(ニライ社、1996年)などがある。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『世界のウチナーンチュ』は、琉球新報紙上において1984年から1985年にかけて掲載されたシリーズを刊行したもの。またこれに関連して、沖縄テレビも『沖縄発われら地球人』や『世界ウチナーンチュ紀行』シリーズを放映した。これ以降、「世界のウチナーンチュ」が言葉として定着した。これら一連の動きは、世界に広がる沖縄系移民(世界のウチナーンチュ)の認知を、沖縄社会の中で高めたものとして評価される。これらの状況は、1990年の西銘順治知事の主導による、「第1回世界のウチナーンチュ大会」の開催に結び付いたといえよう。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『海からぶたがやってきた!』は、第2次世界大戦により、沖縄の食文化の要である養豚業も壊滅したと聞いたハワイの人々が、550頭のぶたを船で送り届けたという史実に基づく児童向け図書。搬送したハワイのウチナーンチュ7人の内、うるま市出身者が多かったことから、同市に2016年に碑も設立された。これに関連したミュージカルも上演されている。第2次世界大戦後の海外のウチナーンチュによる沖縄救済運動を象徴する出来事として知られてきている。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『日本移民の地理学的研究-沖縄・広島・山口-』は日本からの出移民について、豊富な統計資料を用いて実態を明確にした学術書。西日本を中心とした沖縄、広島、山口などの移民送出地域の類型を抽出するとともに、移民県・沖縄の日本における特色や研究上の位置付けが明確になり、その後の移民研究にも大きな影響を与えている。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『アメリカを動かした日系女性-第二次世界大戦中の強制収容と日系人のたたかい-』は、ウチナーンチュ2世によるアメリカでの強制収容前後の体験に基づく記録。ハワイを除いたアメリカ本国在住の日系人は、第2次世界大戦中、敵国人として強制収容所に集められた。著者は戦後、強制収容被害者の補償獲得運動への貢献を評価され米国政府から表彰された。米国の強制収容所には南米から収容された日系人も多く、坪居壽美子『かなりやの唄』(連合出版、2010年)は、当時の状況をよく描いている。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『沖縄と「満州」-「満州一般開拓団」の記録』は、日本における移民史の秀作である。2004年に発行した『沖縄県と「満州」①一般開拓団』を検討・修正した「改訂版」が本書である。戦乱を挟み、資料も散逸した中、丹念な聞き取り調査を積み重ね基礎資料を作成している。これを基に、移民の軌跡が描かれている。巻末の「戸別状況表」は大変貴重な資料である

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『もう一つの沖縄文学』は、ウチナーンチュの海外経験を描いた作品を紹介している。南米を題材とした大城立裕著『ノロエステ鉄道』(文芸春秋、1989年)はよく知られるが、同書では、シベリア、ハワイ、台湾、インドネシア、フィリピン、居住地としての南洋などを舞台にした埋もれた作品を紹介している。いずれも作家の眼を通して、ウチナーンチュの内面を考えさせてくれる作品である。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『空白の移民史』は、森村桂著『天国にいちばん近い島』(学習研究社、1966年)で知られるようになったニューカレドニアのウチナーンチュを取り上げている。同書を基に2017年に制作された映画『まぶいぐみ~ニューカレドニア引き裂かれた移民史~』は2018年度文化庁映画大賞を受賞した。これらを通して、ハワイや南米以外の地域へのウチナーンチュ移民への一般市民の関心を高めている。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます