沖縄の年中行事を
知るための10冊
選定書籍一覧
(加治 順人・選)
年中行事とは、毎年の決まった時期に家庭や地域などで行われる伝統行事である。暮らしに楽しみや安らぎをもたらし、単調な生活にリズムを与えてきた。一般に日本では、公家や武家の儀式が広まったもの、寺社の祭礼にともなうもの、農業など地域の暮らしに関わるものなどがある。沖縄の場合、中国の影響や琉球文化を継いだ要素もあり、現代では運動会やクリスマスなども広義の年中行事に含まれるだろう。
ここでは沖縄の祖先祭祀にもとづいた狭義の年中行事を中心に紹介したい。
限定するには理由がある。沖縄の場合、島や集落ごとの違いが大きい。暮らしや習俗も違えば、行事もまるで異なる。そうした地域の特性を無視して「沖縄県の」年中行事と一括すべきではない。地域の差異を超えて共通する行事があるとすれば、親族内でつないできた祖先祭祀にもとづく行事だと思われる。
また、沖縄の場合、沖縄戦と戦後の混乱も影響した。文化の中心地だった首里と那覇はほぼ全域が焼失。戦火は建造物ばかりか、文化の担い手や暮らしそのものまで失わせた。終戦後も、軍用地接収や経済要因による大規模な人口移動により、地域の姿が大きく変化する。集落構成員の変化、貧困、アメリカ文化の奔流は、伝統的な祭礼や習慣の継承を困難にした。いくつもの文化的伝統が途絶えた。それでも生活の復興とともに真っ先に取り戻された年中行事は、壮麗な建造物や装飾を用いずとも親族内でおこなえる行事であった。故人をしのんで祖先を敬い、親族の繋がりを深め、命あることに感謝して無病息災を祈り、子孫の繁栄を願う。沖縄の年中行事の核として受け継がれているのは、そうした祈りや願いである。
解説
年中行事の本は、実用的なマニュアル・沖縄文化案内・民俗学研究に大別できる。マニュアルは実践を、文化案内は紹介を目的とする。両者ともに沖縄の独自性を強調し、あるべき理想の形を想定しているのが共通する。
時代は変わり、暮らしは移ろう。文化もまた生き物だ。外からも影響されれば、政治や経済も作用する。もとより年中行事は地域や家族ごとに異なり、本来「正しい」行事は存在しないはずだ。書籍により画一化され、固定化されてはならない。現代はパソコンやスマホで簡単に情報が得られて、なおさら「正しい方法」の呪縛が強まる恐れがある。
一方、民俗学の研究書は読みづらく見えても、年中行事の本質を捉える。沖縄では社会の大変動の直後に優れた文献が現れてきた。その時代の行事や風俗を書き残そうとする熱い使命感が宿る。時代の変化にしたがって行事も変化していいし、「正しさ」に縛られて「楽しさ」を失ってはならないと教えてくれる。現代の私たちなりの行事のあり方を模索する手がかりとなるような、開かれた民俗学が待たれる。

加治 順人 (かじ・よりひと)
1964年那覇市生まれ。
大東文化大学卒業。皇學館大學神道学専攻科修了。
沖縄国際大学大学院地域文化研究科修了(社会学修士)。
沖縄県護国神社宮司
沖縄国際大学総合文化学部非常勤講師
放送大学非常勤講師
著書
『沖縄の神社』2000年、ひるぎ社

だからこそ正しい方法でおこなわねば、という強迫観念が強いのだろう。近年、「ウガン本」と呼ばれるジャンルが確立した。いわゆるマニュアル本で、書店ばかりかスーパーのレジ横やコンビニにも置かれるほど需要があるらしい。草分けとなったのは『よくわかる御願ハンドブック―ヒヌカン・トートーメー12ヵ月―』(「よくわかる御願ハンドブック」編集部、ボーダーインク、2006)で増補改訂してロングセラーとなっている。

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『沖縄の年中行事 方法と供え物 御願のグイス』(高橋恵子、那覇出版社、2009)は、カタカナ表記のシマ言葉で祈り(グイス)まで教える。総じてウガン本は、平易な文章とイラストで手順や方法を具体的に解説し、実際に行事を取り仕切る人の実用のためにある。

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年中行事を知る入門書としては、『沖縄の祭りと行事』(比嘉政夫、沖縄文化社、1993)が手軽。月ごとに行事がまとめられ、ルビも多く付されて読みやすい。

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沖縄タイムスのミニコミ紙の連載コラムを元にした『沖縄しきたり歳時記』(稲福政斉、ボーダーインク、2015)は、マニュアルやスピリチュアルとは一線を画した良書。著者は沖縄民俗学の泰斗・平敷令治の教え子として、日本のしきたりと比較する視点から、行事の来歴や意味、地域による特色や変遷まで述べる。

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『沖縄の年中行事』(崎原恒新、沖縄出版、1989)は、郷土史資料に数多くあたって各地の行事を広く丁寧に紹介し、拝所巡礼や神社仏閣の祭りまで目配りして行き届いた内容である。

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学術的に第一級の資料は、1713年に琉球国王・尚敬の命により編纂された『琉球国由来記』。王城の年中行事に始まり、宮古・八重山まで至る各地の祭祀や行事を記録して、往時を知ることができる。沖縄戦によって尚家が所蔵する原本や県立図書館所蔵資料が焼失したため、戦後発見された三種類の写本を校合して復刊された『定本 琉球国由来記』(外間守善・波照間永吉編、角川書店、1997)は、膨大な量の索引が作られて使いやすい。

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『沖縄の宗教と社会構造』(W・P・リーブラ著、崎原貢・崎原正子訳、弘文堂、1974)も貴重な資料。著者は1945年に米軍兵士として初めて沖縄を訪れ、1953年から何度も滞在調査を重ねて、1966年にハワイで原著を出版した。アメリカ人に向けているので宗教的価値観と行事が丁寧に解説され、戦後まもない沖縄滞在記もとても貴重で面白い。

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『沖縄の祭祀と信仰』(平敷令治、第一書房、1990)は、著者が70年代から80年代にかけて各地を調査した成果を編んだ論文集。

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『沖縄の祭りと年中行事』(上江洲均、榕樹書林、2008)は、古い行事が残る伊平屋・伊是名・久米島・読谷村・奄美の事例が中心。行事における食や楽しみ、集落の活力を評価する視点が良い。

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10冊目は、郷土史という分野そのものである。地域の特性を知るには市町村や字ごとに編まれた資料にあたるのが一番いい。戦災で失ったものが多いせいか、実は沖縄は、他県に類を見ないほど郷土史が充実している。図書館の郷土史の書架へ行くと、見渡す限りの歴史の量に圧倒されるはずだ。複数の本が出ている地域もあれば、小さな集落や離島さえ驚くほど大部な歴史書を編む。いずれも地元の郷土史家が情熱をもって執筆し、地域住民の生活や経験を丁寧に聞き取った労作ばかり。地域の行事と生活が活写され、たいへん面白い。ぜひ縁ある地の本を手に取り、自分の1冊を見つけていただきたい。

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