沖縄の民話を知るための
10冊
選定書籍一覧
(太田 利律子・選)
解説
作者不詳で、庶民に本が普及するごく最近まで、口承伝承であった物語が民話・昔話である。1973年以降民話調査が進み7万6千話が記録された。その調査を率いた故・遠藤庄治(元沖縄国際大学名誉教授)は、沖縄の口伝えの話に柳田國男が発した「昔話」、関敬吾が発した「民話」にも当てはまらない話柄群があることに気づいた。多様な民間神話の存在、支配者である歴代王統や按司等の話を先祖の話として語る人々の多さ。そこで彼は、沖縄で伝えられた口伝えの説話全体を沖縄伝承話と呼んだ。
沖縄は、日本全体の記録話数約6万(日本昔話通観全巻総話数・小澤俊夫)を超える話数が記録された。250年前の『遺老説傳』、100年前の『南島説話』、現代の調査記録『各地の民話集』、研究者にとって何と豊かな沖縄口承伝承話世界であることか。また、次世代にどう語り継ぐか、新しい語り手、再話作品作りも進めたい。
1973年以降の民話調査の対象話者は、ほとんどが明治・大正時代の方々。語る言葉はしまくとぅばであった。調査後、42の自治体から民話集、報告集が出版されている。掲載された方言翻字作品は、各地のしまくとぅば復興に大いに役立ち、残された音声テープは、県民の貴重な財産となるだろう。

太田 利律子 (おおた・りつこ)
1953年那覇市生まれ。沖縄国際大学国文科卒業。
沖縄女子短期大学非常講師。
NPO法人沖縄伝承話資料センター副理事長

『球陽外巻 遺老説傳 原文・読み下し』は、沖縄最初の民話集。1745年編さんの琉球王府の正史『球陽』に収録できなかった記事を編さんした説話集。遺老説傳とは遺老(古老)により語り継がれた話の意。荒唐無稽な話、伝説が多いが、「天人女房」「睡虫次良」「黄金の瓜種」「浦島太郎」等昔話も数編収録されている。それらは、1973年から始まった県内の民話調査で採集された話といくつも重なり、200年余りも語り継がれてきた口承伝承のすごさを実感することができる。

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『南島説話』は1893(明治26)年、当時の宜野湾村に生まれた佐喜眞興英が祖母、父親、知人らから聞き取った神話・昔話・伝説等100話が収録されている。話の全てに伝承の系譜や伝承された状況の記録考察がなされ、民俗学の立場から出された一級の民話資料である。

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『日本昔話通観 第26巻 沖縄』は、日本全国を26の都道府県別に分けた民間説話の調査資料集。2~3県で1冊もある中、沖縄県だけで1冊(944ページ)の大著。編集時、確認することができた単行本、雑誌、昔話資料を載せた地誌、民俗誌、民話調査の稿本(報告書)に記録された話柄を話型ごとに分類し、典型話と類話を記載。その時点での沖縄の民間説話全体を見ることができる本。

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『遠藤庄治著作集 第一巻 沖縄の民話研究』は、1973年から32年間、国頭村から与那国町まで、ほぼ沖縄全域(48市町村)を民話調査し、43冊の民話集(調査市町村発行報告集・資料集等)の発刊に尽力した遠藤庄治(故人)の研究論文33本が納められている。内容は、人類の古層の話とされる日光感精説話・卵生説話や始祖伝承、島建ての話、来訪神や大歳話、そして異郷からやって来たマレビトの話等々、神話、伝説、昔話等、広範にわたり、日本本土はもとより、中国、韓国、環太平洋の国々との国際比較など、彼が実際に調査記録した沖縄の伝承話約7万6千話を考察し論じている。

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『粟国島の民話』は、1980年から1990年まで断続的に行われた民話調査を基に編集された民話集。粟国島は本島に近い離島でありながら、独特の話の特徴を持つ。沖縄の豊かな伝承話世界を味わうことができる本である。いくつかの方言語り資料もあるが、ほとんどが話者の語りを生かした共通語再話であり、読みやすい。

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『沖縄の昔ばなし 山本川恒翁の語り』。山本川恒(やまもとせんこう)さんは、沖縄を代表する昔話の語り手。1981年沖縄国際大学口承文芸研究会を中心に行われた名護市屋部地区の民話調査で彼が語った話から100話が収録されている。比嘉久の話者解説と、一話ごとに遠藤庄治の話柄解説が付いている。また収録話の内容の豊かさ、川恒翁と県内でも2、3人しか語っていない希少話の多さ、語り口の良さにおいても素晴らしい個人民話集である。

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『沖縄むかしむかし-子どもに語る沖縄の民話-①②』は、那覇の民話資料第1集~6集から、子どもに語れる話を選び再話した再話集。再話は小澤俊夫主宰・沖縄昔話大学再話コースで学んだ子どもの本研究会会員が行っている。①には、動物昔話を中心に25話、②には、昔話、伝説、笑い話が22話収録されている。方言語り資料のままでは子どもが理解できない。方言対訳を参考に、子どもが話を理解できるように話を整えているので、語りや読み聞かせにも使える。

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『うずらのかあさん』は、宮古諸島を中心に伝承されている民話「うずらのユガタイ」の中から、多良間島の話者の語りを再話、絵本にしている。文章は、歌い口調で、リズミカル。絵は、うずらのお母さんがたくましく、お父さんは気弱に、卵からかえった4匹のひなも表情豊かに描かれ、語りの世界を見事に絵本にしている。足と手だけが登場する人間もやさしい。

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『かにじょうまんの星』は、本部町で採集された「運定めの星」の再話絵本。貧乏な老夫婦がいくら働いても貧しいままなので、世の中の金持ちはどうして金持ちになれたのか訪ねる旅に出る。人間は誰でも運を決める星を持っていることが分かるが、小さい星を持った老夫婦は…。沖縄では類話が幾つか採集されているが、本土では採集例がない話である。小澤俊夫監修・子どもと読む日本の昔ばなし全30巻の中の1冊。

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『りゅうになりそこねたハブ』。儀間比呂志は幾つかの創作民話絵本も出版しているが、この作品は沖縄各地に伝わる「千年蛇」の再話絵本。蛇は、人に見られず、千年修行を積むと龍になれるという。きょうまさに千年目の蛇が龍になろうとする時、人間に見つかってしまう…。この話もまだ沖縄の採集例しかない。儀間比呂志の民話絵本は、絵(版画)がすばらしい。沖縄を良く知っていなければ描けない絵、古き良き時代の沖縄の情景が描かれ、話の世界を広げてくれる。

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