沖縄戦-学徒隊を
知るための10冊
選定書籍一覧
(仲田 晃子・選)
沖縄戦当時、沖縄には中等学校、師範学校が男女合わせて21校あったが、その全ての学校から生徒が戦場動員された。彼らのことを「学徒隊」と呼ぶ。学徒隊は、法に基づかない現地軍の要請に、県と学校が応じて実現した。吉浜忍の報告によると、沖縄戦に関する刊行物は、2000年時点で775冊を数え、そのうち学徒隊関連は1割程度にのぼるという。創作も含めて多様な本があるが、今回は、当事者が残した体験記録を中心に紹介したい。

仲田 晃子 (なかだ・あきこ)
1976年那覇市生まれ。
ひめゆり平和祈念資料館説明員。
展示室での説明、平和講話に携わる。
『沖縄県史 各論編第8巻 女性史』「「ひめゆり」をめぐる語りの戦後史」執筆担当。

ひめゆり学徒隊の引率教師だった仲宗根政善の『ひめゆりの塔をめぐる人々の手記』は、沖縄戦の体験者による記録としても最も早いもののひとつで、初版は、1951年に刊行された。生徒の手記を集めてまとめたもので、仲宗根は、各配属先の記録を集めるだけでなく、同じ時、同じ場所にいても異なる経験をしたそれぞれの視点を大切にすべく、改訂のたびに生徒の手記を新たに追加していった。

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できるだけ多くの体験者の記録を残そうとするあり方は、学徒隊の本の多くに共通するが、その視点の複数性は、耳慣れない部隊名や地名の頻出、現在の学校制度との違いなどもあいまって、後の世代にとって、読み解くことを難しくしている。『沖縄戦の全学徒隊』は、21校全ての学徒隊を紹介するもので、各学徒隊の概要を知ることができるが、本文注記のほか、資料編の解説や地図、用語集などは、学徒隊関連の本を読む際の助けとなるだろう。

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『沖縄戦の全女子学徒隊』は、女子学徒隊の生存者が学校の枠を超えてまとめた記録である。彼女たちは、他の学校の体験もお互いに学び合おうと、フィールドワークを重ね、体験を語り合い交流を深めてきた。女子はどの学徒隊も看護活動を行ったが、本書では共通点と同時に、学校ごとの体験の特徴もみえてくる。入手しやすく、入門書にもよい。

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男子は、主に14歳以上の生徒が学校ごとに隊を複数編成して部隊に配属され、軍服を着て戦場に出た。名護市にあった県立第三中学校の体験をまとめた『三中学徒隊 沖縄戦で散った学友に捧ぐ鎮魂の詞』は、著者の宮里松正の体験から書き起こされており、読み進めやすい1冊だ。学友にも取材し、三中学徒隊の全体像もまとめている。名護市為又から敵中突破を図るルートを選ぶ際、戦争前に同所で毎年行っていた夜間演習によって地形を熟知したことが生かされていたことには、驚き以上に戦慄を覚える。

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『沖縄一中 鉄血勤皇隊の記録』は、兼城一が、21年にわたって同窓生を一人一人たずねて話を聞き、まとめた労作で、上下巻にわたる。多くの証言は、時系列、トピックごとに整理され、個々人の証言の具体性を失わせずに、各地で起きていたことを複数の視点でみごとに浮かび上がらせている。

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首里城の炎上で、地下の司令部壕にも注目が集まっているが、その構築に関わっていたのは沖縄師範学校男子部である。同校の千早隊で、首里城正殿裏手の留魂壕にいた大田昌秀は、沖縄戦直前の3月末のクラス会から10月末に米軍に収容されるまでの体験を詳細に書き残している。大田は、自身の記録と合わせて、絶版の書籍に収録された学友や教師の手記を再録し、全体の動向を書きおろして『沖縄健児隊の最後』にまとめ、現代の読者に届けた。
厳しい戦場体験を記す文章の端々から、戦場の兵士としては幼い、いたいけな少年だった彼らの姿がかいまみえる。

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戦争トラウマ、性暴力、精神医療、戦後世代に連鎖する被害、貧困問題、就職差別、いじめなど言葉をすべては拾えない。現在でも平和と言えない状況はいくらでもある。「平和」を標榜する社会で、戦争のような状況から抜けきれないでいる人たちを「分断」しているものは何か?『終わりなき〈いくさ〉~沖縄戦を心に刻む』はそれを示唆する。

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元学徒の単著は、個人のストーリーになっており、どれも読みやすい。宮良ルリの『私のひめゆり戦記』は、故郷石垣島での暮らしに始まり、沖縄戦を生き延びて島に戻るまでの記録だ。地上戦がなかった石垣の小中学校で戦争体験を教え子たちに話してきた宮良は、体験のない世代にとって分かりづらい事柄や心境に、説明を加えながら記している。

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『白梅学徒隊 きくさんの沖縄戦』は、中山きくの体験を、戦後生まれの比嘉美津枝と磯崎主佳が、絵本にまとめたものである。戦争体験講話を精力的に続けてきた中山は、本書の刊行以降、自身の講演でも本書を使うことがあるという。体験者と非体験者の共同作業によって、より小さい子どもたちにも体験を共有する試みがなされている。

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『ひめゆりと生きて 仲宗根政善日記』は、仲宗根の戦後の日記である。引率した多くの教え子を失い、生き残ることになった仲宗根は、亡くなった生徒の家を訪ねて親たちの前に出て行き、雨が降るたび、米軍基地のニュースに触れるたび、戦場に引き戻されて繰り返し生徒のことを記した。取り戻せない過去に向き合い続けた記録である。

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