沖縄戦-平和学習を
知るための10冊
選定書籍一覧
(平良 次子・選)
先日子どもたちの前で戦争体験を語った94歳のおばあさんが、「亡くなった人たちのことも話ができてよかった」と安心したように言われた。別の方は「年を取ると、先に(大戦で)亡くなった人たちにあの世で会った時、君は私たちより長生きして、どんな生き方をしてきたのかと問われるのが怖くなる。だから今できることをしたい」と証言活動に協力して下さった。体験者の気持ちの安定のためにも、私たちは苦しい体験を共有する必要を感じる。沖縄戦を学ぶ入り口は多様だが、本質を知る基本は体験者の具体的な語りではないかと思う。
そして戦争体験者は、戦死者と共に生きている。

平良 次子 (たいら・つぎこ)
1962年大宜味村生まれ。
1986年琉球大学法文学部卒業、その後渡米。
沖縄県人材育成財団の派遣事業で1988~89年インドネシアへ留学。
南風原文化センターに設立時より関わり93年学芸員採用。
現在同センター館長。沖縄インドネシア友好協会事務局長。


戦争がなぜどのように起こるかを知るためにわかりやすい絵本『新・戦争のつくり方』はよく知られている。

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沖縄戦を学ぶ導入には『沖縄戦のはなし』(安仁屋政昭)や『沖縄戦を知る事典 非体験世代が語り継ぐ』が浮かぶ。沖縄戦と現在の沖縄社会の問題を戦後生まれの編者たちによって編まれた沖縄戦学習に有用な一冊だ。

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住民の目線で記録された本には『鉄の暴風』(沖縄タイムス社編)に始まり、体験者が「血を吐くように」書きつづられた『沖縄の悲劇』(仲宗根政善)、『沖縄健児隊の最後』(大田昌秀編)、そして県史や各市町村史でまとめられた戦争編の中の膨大な証言記録などがある。子どもたちが聞き取る戦争体験をまとめた琉球新報の『未来に伝える沖縄戦』シリーズ。

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『戦争と平和を考える NHKドキュメンタリー』も見てみたい映像記録が紹介され、ありがたい1冊である。それぞれの本はテーマを変え、視点を変えて「沖縄戦」の実相をあぶりだし続けている。本当に頭が下がる思いだ。

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戦後「生きていかなければならなかった」一人一人の生活のありさまを記録した本もある。生き残った人たちの「死に物狂い」のような生き方。感情をむき出した、あるいは抑え込んだ生き方を強いられた人々の日常。『沖縄戦と心の傷』を読むと、そうだったのか、と思わされることばかりである。

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沖縄戦から学んだことの一つは、「弱者の視点」に気付いたことではないかと思う。戦争で犠牲になったのは誰か、どの立場の人がどんな被害にあったか。責任者や加害者は?軍隊や権力者に対して子どもや女性、年配者、障がいを持つ人、地域的・構造的差別(沖縄の立場)などを知ることになり、それは現代社会の問題につながっていく。
今、「平和」という言葉に程遠いところで日々暮らす人たちがいる。まさに戦場のような日常の状況が私たちの生活と表裏一体で存在していることを気づかせた『戦争とこころ―沖縄からの提言』(沖縄戦・精神保健研究会編)の中には、戦争を引きずる多くの人たちの戦後の「戦場」の様子がたくさん記録されている。戦争トラウマ、性暴力、精神医療、戦後世代に連鎖する被害、貧困問題、就職差別、いじめなど言葉をすべては拾えない。現在でも平和と言えない状況はいくらでもある。「平和」を標榜する社会で、戦争のような状況から抜けきれないでいる人たちを「分断」しているものは何か?『終わりなき〈いくさ〉~沖縄戦を心に刻む』はそれを示唆する。

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『裸足で逃げる』のタイトルを見た時、身内のことを書いてあるのかとハッとした。日ごろ平和学習に没頭しながら、すぐそこに日常生活もままならない人がいるなんてむなしい。戦争が命の尊厳や人としての権利を奪うものであるなら、今を生きるのが苦しいような社会構造や状況を戦争といえないか。命に関わる問題を無視して平和は語れないと思った。

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であれば、「平和」は国に対して求めるばかりではなく、逆に日常を生きる私に求められていることだと気づく。立場や状況のちがう「他者」への気遣い、想像、何らかの施しができ、社会の中で誰が、どんな理由でどう困っているのか、何が間違っているのかを考えることができることを目指したい。
そして沖縄戦を学ぶとき、沖縄の人も多く関わったアジアでの戦争とのつながりをみたい。沖縄戦は突然沖縄だけで始まった戦争ではないのだから。『アジアでどんな戦争があったのか』はその概要を紹介している。当時の日本の姿が見え、現在の姿に通じる。今、軍事基地は必要か。

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『山羊の肺』という写真集の中にこんな言葉を拾った。平和の象徴と言われる「鳩」や「平和の像」について平敷兼七は、チビチリガマに「平和の像」が造られたとき見に行ったがカメラを向ける気にはなれず、それが破壊されたときにシャッターを切ったという。
その本の編者中條朝は、「平和を象徴する『鳩や子ども』はそれらを破壊する暴力の酷薄さから私たちの目をそらす役割を果たしているとも言えないか、他者への暴力を内面化している社会を変革するために、その記憶をよみがえらせること、発掘すること、捉えることが必要であるなら、芸術はその内感をつかみ、表現する役割を担わなければならない」と指摘している。「鳩や子ども」ばかりを見ていては見えなくなってしまう本質があることを思わせた。

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