首里城を知るための
10冊
選定書籍一覧
(田名 真之・選)
2019年10月31日未明、火災により首里城正殿他7棟が焼失した。テレビ画面で焼け落ちる首里城正殿を見ながら、それが現実だと受け止めることができなかった。あれから3カ月、国、県ともに有識者会議などを立ち上げて首里城復元に向けて動き出している。今年は復元が本格化する大事な年である。多くの方々の英知を結集して新たな首里城を築きたいものである。併せて周辺の首里城公園の整備にも取り組む必要がある。円覚寺、中城御殿、御茶屋御殿などの復元である。これらに現存の玉陵、弁財天堂を加えれば、世界遺産の首里城正殿(跡)を含む琉球王国の歴史、文化を一体として体験、学習できるゾーン、観光の拠点となるゾーンが整備されることとなる。是非実現を期待したい。
さて、首里城に関する本は枚挙に暇がない。たとえば首里王府の編纂した『中山世譜』『球陽』などの歴史書に首里城は多々登場するし、『琉球国由来記』には首里城での正月の儀式などが詳述されている。1768年の「百浦添御殿普請付御絵図并御材木寸法記」(鎌倉資料)や1842~46年の「百浦添御殿御普請日記」等(尚家資料)は首里城正殿の改修工事の記録で、1992年の平成の復元の元となった。鎌倉芳太郎や坂本万七らの戦前の首里城を写した写真集も貴重である。その他、首里城を舞台とした小説もあるが、今回は1992年の復元を前にまとめられた本、復元後の首里城、そして失われた首里城についての10冊とした。

田名 真之 (だな・まさゆき)
1950年、那覇市生まれ。神戸大学文学部史学科卒。
那覇市歴史資料室長や県立芸術大学教授、沖縄国際大学教授などを経て、
2016年4月から県立博物館・美術館館長。


『写真集 首里城』。1986(昭和61)年11月首里城復元が閣議決定されたことから、改めて首里城とは何か、多くの人々に知ってもらいたいとして編まれた写真集。
在りし日の首里城、周辺の円覚寺、尚家邸(中城御殿)など鎌倉芳太郎や田辺泰、阪谷良之進らの写真や図で紹介し、島尻勝太郎らの解説を添えている。同種書籍の魁を成す写真集である。

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『首里城入門』首里城研究グループ。首里城復元に関わった高良倉吉、福島清、平良啓、加藤真司らが、復元決定から3 年かけて行った文献資料の検討、古写真の分析などを踏まえて、その成果をまとめた書。正殿や北殿、南殿など主要建物の立面図が示されており、主に建築を中心に記述されるが、各分野の専門家の討議を通じた網羅的な首里城研究書である。

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真栄平房敬『首里城物語』。戦前尚家に出入りして行事の手伝いをしたり、城内の小学校に勤務していた氏だからこその著作である。城内の主要建物の概説、尚家での見聞を通してのかつての城内での儀礼、祭礼や国王の暮らし、王妃選びの手順など貴重な記録となっている。

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『琉球王府 首里城』。復元なった首里城の開園を記念した書。正殿の全景、内部の御差床など多くの写真(100ページ)で紹介した大型本。奈良国立文化財研究所所長で首里城正殿実施設計委員の鈴木嘉吉氏が序文で「本書は復元工事の学術的報告書の役割を含んで編纂された。復元の基礎となった史料や詳細な図面をほぼすべて収録している…執筆も設計担当者が中心になっている」と記し、如何にして復元がなされたか詳細な記録となっている。同様に開園を記念した大型の写真集に『首里城』(毎日新聞社)がある。

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『甦る首里城 歴史と復元』首里城復元期成会。首里城復元を記念した書である。3部構成で1部が首里城の歴史や儀礼、建築など又吉真三氏など8人が分担執筆。2部は首里城復元運動の記録、3部が資料編である。資料編では、琉大跡地利用計画についての西銘順治元知事の琉大への回答、首里城復元に関する国会や県議会での質疑応答、陳情文書、要請総覧、期成会の基金造成事業など、復元に関わる多方面の貴重な資料が収録されている。期成会は会の創立30周年記念として10年後に『甦った首里城』(2003年)を発刊。同書では30周年記念の座談会の他、期成会の30年の歩み、シンポジウム「残された復元の課題」などの記録を収録している。

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野々村孝男『首里城を救った男―阪谷良之進・柳田菊造の軌跡』。1930(昭和5)年の首里城解体修理の責任者だった文部技官の阪谷良之進と現場責任者で宮大工の柳田菊造の足跡を追い、功績を検証した書である。2人について、野々村はほとんど手掛かりのない中、手段を尽くし細い糸をたぐり寄せ2人にたどり着く、まるで推理小説の世界である。彼らの奮闘努力を検証し、その功績は顕彰されるべきだとの野々村の執念には敬服するほかない。

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『首里城の復元―正殿復元の考え方・根拠を中心に―』海洋博覧会記念公園管理財団。復元10周年の記念事業として出版された書。復元に関わった高良、福島、平良、加藤4人がサブタイトルに掲げたテーマについて子細に論じている。関連資料の調査、収集から復元の根拠となった文献資料の分析、活用の経緯など。また正殿の構造、造作、瓦、塗装・彩色など各々を検討し確定していった過程を丁寧に解説。首里城がどのような検討を経て復元されたか、その子細を示した書となっている。

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『首里城復元期成会会報』1号~25号。首里城復元期成会の機関誌。シンポジウムの開催や龍樋周りの冊封使の石碑の復元、国王頌徳碑、真珠湊碑の復元事業などの会の活動などを収録。期成会の30余年にわたる活動、復元に果たした役割を確認する事が出来る。

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『首里城研究』1~20号、首里城公園友の会。首里城研究会の機関誌。琉球・沖縄の歴史、文化に関する2カ月に1度の研究発表会の一部を掲載。内容は多岐にわたるが、近年の「御後絵特集」では、「理化学調査された琉球絵画」「御後絵をとりまく研究史」「琉球絵画および関連作品の彩色材料調査」などの論文が収録されており、先端を行く議論が展開されている。

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『報道写真集 首里城』沖縄タイムス社/『甦れ!首里城』琉球新報社。ともに2019年10月31日の首里城炎上を受けての出版である。首里城の焼け落ちていく様、焼け跡の無残な姿、ぼうぜんと見つめるしかない人々。そこに在りし日の首里城、廃墟となった首里城、甦よみがえった首里城が続く。悲しみの記録は次の復元に向けての糧となる、しなければならないだろう。

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