沖縄の歴史を知るための
10冊
選定書籍一覧
(高良 倉吉・選)
解説
沖縄の歴史に関する書籍は毎年数多く出版されており、そのすべてを読み尽くすことは不可能な状況である。しかも、歴史研究を仕事とする研究者・専門家のみではなく、ジャーナリストや評論家など多様な表現者が参加する分野として展開している。それは、沖縄の現在そして未来を語る際に、歴史認識が絶えず問われ続けるからであろう。そのことは、歴史像そのものをどう深化すべきか、という基本課題に常に連動している。
なお、宮古・八重山および奄美についても数多くの歴史書籍や論文が刊行されている。調査・研究の水準をふまえた体系的、全体的な入門書ができるだけ早く出版されることを切望している。
また、沖縄近代史についても、経済・産業・文化を含む全体史的な入門書の刊行が待たれる。

高良 倉吉 (たから・くらよし)
1947年伊是名島生まれ、南大東島育ち。愛知教育大学卒業。
1973年~沖縄県沖縄史料編集所等、1988年~浦添市立図書館にて館長を勤める。
2013年~(2014年12月)沖縄県副知事。
琉球大学名誉教授(文学博士・琉球史)
著書
『琉球王国の構造』1987年、吉川弘文館
『「沖縄」批判序説』1997年、ひるぎ社
『アジアのなかの琉球王国』1998年、吉川弘文館
『琉球王国史の探求』2011年、榕樹書林
他多数

沖縄を対象とする歴史研究において、近年めざましい成果を挙げているのは考古学や人類学の分野であろう。だが、専門的な論文や報告書は数多く出版されているものの、基本知識を学ぶための入門書がこれまでなかった。『南島考古入門』は、沖縄考古学会に所属する研究者を動員し、考古学が対象とするテーマのすべてを分かりやすく解説した画期的な本である。考古学の分野から見える沖縄の興味深い歴史像が、随所に登場する。

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文献資料を駆使する歴史学の分野では、パイオニアであった伊波普猷や東恩納寛惇ら先達の成果を継承しながらも、より多彩な資料を使うと同時に、より広い視野から沖縄の歴史を考察する態度が支配的となった。高良倉吉『琉球の時代』は、薩摩侵攻(1609年)以前の古琉球の時代について、琉球内部の動きを認識するだけではなく、アジア世界との関わりを持つダイナミックな歴史像として追求すべきだと力説している。

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上里隆史『新装版 海の王国・琉球』は古琉球像に関する問題を更に発展させ、陸や島に拘束された個々の立場からではなく、海によってつながるネットワークの歴史、すなわち海域史という観点から新たな地平を描いてみせた。海域史の視点から歴史を考える動きは歴史学の大きな流れとなっているが、その視点を古琉球研究に適用すると同時に、復元想像図を提示するなどの工夫により、歴史研究の成果をより分かりやすく伝えようとする努力が発揮されている。

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薩摩侵攻後の時代を近世琉球と呼ぶが、それ以前の古琉球と近世琉球にまたがる時代を概観したのが赤嶺守『琉球王国』である。琉球王国という存在が形成され、アジア世界と交流し、様々な危機と向き合いながら王国が展開した状況を通論している。著者は王国の外交文書集「歴代宝案」の研究に尽力していることもあって、特に対外関係の視点から琉球王国像を分かりやすく描いている。

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豊見山和行『琉球王国の外交と王権』は専門書に属するが、近世琉球を認識する際の主要な論点について深く掘り下げた成果である。中国(明朝・清朝)との外交や貿易関係、あるいは徳川日本(幕藩制国家)・薩摩藩との関係をダイナミックに描き出すと同時に、その二つの関係が琉球内部にどのように連動していたかを提示した。そして、そうした国際関係の中で琉球の王権がどう意義付けられたかを示し、全体として琉球王国の政治・外交的な特質について問題提起している。

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渡辺美季『近世琉球と中日関係』も専門書であるが、問題のステージを東アジアの国際関係に展開し、その視野から琉球と中国(清朝)、琉球と徳川日本、中国と徳川日本という複雑に交差する諸関係の中に琉球を位置づけ、歴史状況のダイナミックな諸相を明らかにしている。特に注目されるのは、琉球が中国や徳川日本との関係に埋没するのではなく、東アジア国際関係の中で独自の立ち位置を発揮しようとした姿を提示していることである。

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琉球処分=沖縄県設置(1879年)から始まる近代沖縄の時代に関しては、体系的な入門書が少ない。ここでは、あえて上野英信『眉屋私記』を取り上げた。この本は狭い意味での歴史学の成果ではなく、聞き書きを中心とするドキュメンタリーであるが、沖縄近代史を無名の、しかも女性の生きざまを通して切り取ったものとして特筆したい。ヤンバルの屋部村(名護市の一部)の屋号、眉屋(マユヤー)に生まれた兄弟姉妹が生きた足跡を追求し、特に末の妹の山入端ツルの波乱に富んだ人生を描いて、近代沖縄とは何だったのかを問いかけている。

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沖縄戦については、ぼう大な証言・手記・記録・研究が積み重ねられてきた。それらの成果を、37名に及ぶ研究者を動員し、体系的に総括して描いた沖縄戦研究の集大成が『沖縄県史・各論編第6巻・沖縄戦』である。沖縄戦をどう引き受け評価するかという大切な問題の前に、歴史としての沖縄戦に関する事実認識を深化するために、この本は傑出した参考書の位置を占めている。

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『戦後沖縄経済史』は容易に入手できる本ではなかったために、この本の価値を知る人は限られている。アメリカ側の関係資料を含めて分析した上で、アメリカ統治時代の戦後沖縄の実態、特に経済や産業の特質を正面から描いた。この分野に関する体系的な歴史叙述としては、依然としてこの本が一つの到達点である。1400ページを超える大著であり、アメリカ統治が作り上げた沖縄の基本的な構造が提示されている。

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沖縄の戦後史については、実に多くの著作が出版されている。それぞれの語り口そのものが戦後史の多様な状況を反映しており、入門書のほうも数多く提供されている。その中でも、櫻澤誠『沖縄現代史』は、複雑な戦後の政治・経済の推移を分かりやすく整理した入門書の一つといえる。アメリカ統治から近年の「オール沖縄」の動きまで、その要点が簡潔に述べられている。

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