琉球弧の船を
知るための10冊

板井 英伸

選定書籍一覧
(板井 英伸・選)

暮らしを支え、祈りを託す船

琉球弧の島々に暮らす人々にとって、船は長い間、移動・運搬・漁労などさまざまな場面で生活を支え、命を長らえる必需品でした。人々は島という限られた自然環境にあって、貴重な材木をうまく加工し、用途に合わせて様々な船を案出し、使いこなしてきました。
また船は生身の人間には越えられない海を道に変え、島々に豊かさや幸せだけでなく、病や戦の苦しみまで運んできました。人びとは船を超自然的な存在と認識するようになり、芸能や儀礼の中で人の生活と神霊の世界を結ぶ鳥や蝶にたとえ、海の彼方からユー(豊穣・幸福)を持ち帰るハーリー(競漕儀礼)のような宗教行事に用いてきました。
だからこそ島々の船について、戦前から多くの研究者が、民俗学(民具論)や歴史学、造船学や海事学などのさまざまな分野で多数の著作を世に送り出してきました。本稿ではこのような著作のうち、来る2022年に50周年を迎える沖縄の「日本復帰」以後の文献に限定。研究分野や対象とする船、今後の課題などのトピックごとに紹介します。なお、文末の一覧には特に重要なものを載せ、それ以外にもお勧めのものは本文中で触れることにしました。

板井 英伸 (いたい・ひでのぶ)

1963年、山口県下関市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒。琉球大学大学院人文社会科学研究科修了。
沖縄県立博物館・美術館(当時:沖縄県立博物館)や海洋文化館(海洋博公園内)の展示設計・監修を担当。2016年5月から一般社団法人沖縄美ら島財団総合研究センター勤務。

2014年5月、糸満の船大工・大城昇さんが新造した糸満ハーレーで使うハーレー船のシナウルシー(進水式)の様子。地元漁師が見守る中、力強いエーク(かい)さばきでこき出す西村のハーレーシンカ(こぎ手)。=2014年、糸満市・南浜漁港