沖縄の建築を知るための
10冊+
選定書籍一覧
(普久原 朝充・選)
気候風土や地理的条件、政治体制、信仰や慣習などさまざまな歴史変遷がカタチとして建築には刻みつけられている。沖縄の建築においても、その土地ならではの痕跡がいたるところにある。私たちの住まいにおいては、家族が暮らしてきた歴史まで読み取れるし、墓にいたっては私たちがどのように世界を捉え、人の死を悼んでいるのか表明されている。
沖縄では先の地上戦で、多くの血が流れ、多くの風景が失われた。それでも当時を知る人々が守り続けたカタチのない情念が戦後の沖縄を築き上げてきた。ここで紹介する一冊一冊は個別に読んでも構わないけれど、星々を結んで星座をつくるように関連づけて読まれることを期待して選んでみた。欲を言えば、あなたの選書も加えていただいて新たな星座をつくってくれることを願っている。

普久原 朝充 (ふくはら・ときみつ)
1979年那覇市生まれ。
琉球大学環境建設工学科卒。
アトリエNOA勤務の一級建築士。
共著に『沖縄 オトナの社会見学 R18』、『肉の王国 沖縄で愉しむ肉グルメ』。
建築監修に『沖縄島建築 建物と暮らしの記憶と記録』。


伊礼智『オキナワの家』(復刊ドットコム)。「くうねるところにすむところ」という著名建築家による建築絵本シリーズからの復刊本。沖縄建築の魅力や工夫について、子どもでも読めるよう平易に書かれている。著者の子ども時代の住まいの話からは当時の人々の暮らしぶりもうかがうことができ、これからの「オキナワの住まい」についても語られている。

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木崎甲子郎編『琉球の風水土』(築地書館)。夏の暑さや冬の寒さをしのぎ、日々の生活に欠かせない水を得るには、どのような場所に村をつくればよいだろうか。ときには台風に耐え、干ばつにも備える必要がある。住まいの地理的条件となっている自然環境とどのように折り合いをつけて生活を営んできたか。総合的に知りたいときに助けとなる一冊だろう。

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仲松弥秀『神と村』(伝統と現代社)。私たちの生活空間である住まいは、建物単体で成立しているわけではない。住宅ひとつひとつによって形成される集落、その集落を包む山々と海。それぞれの位置関係の背後に「信仰」が通底している。沖縄の集落を訪ね、建物を見るときには、ぜひ知っておきたい教養だ。

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福島駿介『沖縄の石造文化』(沖縄出版)。沖縄は琉球石灰岩の層に覆われた島である。琉球石灰岩はグスク、御嶽、橋、墓、屋敷囲いなどさまざまな場所で使われている。そんな沖縄の石造建築について網羅された一冊。沖縄が木造文化圏と石造文化圏の境界にあったことが分かり、もし住宅を含めて石造建築だったらと夢想させられる。

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田辺泰・巌谷不二雄『琉球建築』(座右宝刊行会)。朽ち果てて解体撤去直前だった戦前の首里城。それを知った鎌倉芳太郎が東京帝国大学教授の伊東忠太とともに解体を阻止した逸話は有名だ。伊東は教え子であった早稲田大学教授の田辺泰に調査を依頼し刊行したのが本書だ。この調査をキッカケにして23件の宝物及び建築物が国宝指定され、首里城と守礼門の復元工事が実施された。戦災で失われた当時の沖縄建築を戦後につないだ貴重な史料だ。

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仲座巖編『仲座久雄 その文化財保護活動 1936年~1962年』。仲座久雄は戦後初期の沖縄を代表する建築家である。一般には「花ブロック」の考案者として名高く、沖縄建築士会初代会長として建築士という職業を根付かせることにも貢献している。戦前の守礼門復元工事において現場主任として関わっていた仲座が、戦後の守礼門復元工事や文化財保護活動にも大きく貢献したことが分かるのが本書だ。現在の私たちが見ている風景は、さまざまな先人たちが築き守ってきたものであることを実感できるだろう。

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尾形一郎・尾形優『沖縄彫刻都市』(羽鳥書店)。コンクリートブロックは、とりわけ戦後において米軍が基地建設工事のために沖縄に持ち込んだ建材だ。戦後の資材不足に悩む沖縄の人々。防護林や石垣は破壊されたために木造家屋は台風被害が相次ぎ、輸入木材はシロアリに弱かった。コンクリートブロック造が選択され沖縄の風景を代表するまでになっていく経緯がわかる。

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金城信吉『沖縄・原空間との対話』。戦後の住宅不足という目前の課題が落ち着き出した沖縄本土復帰前後からは、自らを内省し本土からのまなざしも意識するようになった。そんななか沖縄建築の本質を問い、表現を続けた建築家のひとりが金城信吉だ。優秀な所員らが在籍していた現代設計事務所時代ののびやかな建築作品は、現在見てもまばゆい。本書で解体予定の那覇市民会館を偲びたい。

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親泊元高『念念録』。沖縄の風土と建築に向き合い、教師という立場から沖縄の建築学徒を導き影響を与えた人物に親泊元高がいる。金城信吉とともに訪れた与那国島での体験から「ガジュマル建築論」を提唱するなど、金城の『沖縄・原空間との対話』の理論的背景にもなっているので、合わせて読みたい一冊である。

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OJ会編『大竹康市番外地講座 これが建築なのだ』(TOTO出版)。本土から沖縄に訪れて丹念なフィールドワークのもと建築によって沖縄を表現したものに今帰仁中央公民館や名護市庁舎がある。沖縄の伝統的なデザインモチーフを安直に取り入れるのではなく、ブロック建築によって沖縄の建築空間の本質を提示した。その経緯について設計者自身が語った内容だ。

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最後に、普久原朝充『沖縄島建築』(トゥーヴァージンズ)。沖縄の有名建築を紹介する本ではなく、私たちの身近にある建築についての本である。「建築を通じて人々の暮らしを想像し、人を通じて建築を味わう本」で、私が建築を学び始めたときに「こんな本があったらいいな」という仕上りなので、沖縄建築に興味を持ったときの導入の一冊としてぜひご検討を。

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