食文化を
知るための10冊
選定書籍一覧
(西大 八重子・選)
沖縄は15世紀から19世紀にかけて琉球と称される王国でした。琉球料理はその当時交流の深かった中国、日本の影響を受けながら沖縄の気候風土にあった産物を活かした料理として発達してきました。
その間、琉球国王の代替わりのたびに中国皇帝の使者冊封使がやってきました。その祝宴の料理が御冠船料理です。ところが、1609年薩摩との戦に敗れると薩摩役人の接待のために包丁人は日本料理を学ぶことになりました。それが日本料理の本膳形式をとりいれた「五段の御取持」です。この2つの流れが上流階級士族の料理として伝承され現在の琉球料理へと変遷しました。
一方庶民は芋が主食で総菜には野菜や野草を中心に豆腐やモズク、アーサ等の海藻も用い、肉・魚・野菜の旨味を合わせた簡素な食事でした。ふだんには口にできないご馳走の豚肉を盆正月など特別な日に食することで蛋白質を補っていました。このような食事が沖縄の長寿を支えてきました。しかしながら2015年都道府県別生命表によると女性の平均寿命が全国7位、男性は36位に急落しています。これは野菜摂取の減少も要因の一つであろうと私は考えています。伝統的な食材や調理法をふまえた食の改善が求められています。

西大 八重子 (にしおお・やえこ)
那覇市出身、国立琉球大学農家政工学部家政学科卒業。
西大学院学院長、沖縄美ら島財団琉球食文化研究所研究顧問、
琉球大学非常勤講師。管理栄養士。
著作に『沖縄野菜の本』『沖縄 12か月のおかず224品』他。

2014年3月(写真:沖縄タイムス)

『宮良殿内・石垣殿内の膳符日記』は、八重山石垣市にある旧家宮良殿内の「祭之時膳符日記」と石垣殿内「膳符日記」の原文写真とともに食素材や料理について解説を加えた700ページ余にのぼる史料。宮良殿内の膳符日記の内容は弔之時、文(盆)祭之時十六日祭彼岸といった仏事に関連する献立である。一方石垣殿内の膳符日記は仏事に加えて元服、婚姻、歳日祝等慶事の献立があるのが特徴である。王国時代の料理名材料などの解読の基礎資料となるだけでなく料理を再現する上でも大変貴重な資料である。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『御膳本草』の著者は王府で侍医頭をつとめた渡嘉敷親雲上通寛、尚灝王の命により編集された食医学の本。元本を書き下し文にして穀類から菜類、海菜類、家禽家獣類、魚類、貝類、果物等100 種の食材の薬効、禁忌を詳しく記している。
中国医学の根本には医は食にあり医食同源という日常の食物によって病気を予防し健康を維持する考え方がある。『御膳本草』をみるとその思想が沖縄にも伝わっていることがわかる。『御膳本草』には沖縄の食材も多いことから琉球薬膳の資料として関心が高まるであろう。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『八重山生活誌』は明治、大正、昭和に至るまでの八重山の人々の生活史である。特に食生活については結婚式や法事等の伝承料理も含め、食材の収穫から調理、加工方法にいたるまで詳しく写真入りで記されている。また女性ならではの視点で士族階級から庶民にいたるまで幅広く生活様式、風俗、習慣、各種行事や衣食住について克明に描いている。
著者は70才を過ぎて執筆をはじめ、81才で完成。再版のため90才を過ぎて宮良殿内の義妹とともに料理を新しくつくり直してカラー写真に収めている。その使命感には学ぶことが多い。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『御冠船料理の探求―文献資料と再現作業』。御冠船料理は琉球国時代、中国皇帝の使者冊封使を歓待するための料理で初段~五段菓礫16種全49品の豪華な中国料理である。今回の取り組みは中国の国家級料理人が西大学院で再現した際の料理の写真と作り方が記載されている。冊封使の渡来の歴史や福州での準備の様子、メンバー構成、交易活動などが絵巻物のように生き生きと描かれていてまさに冊封が琉中交流の要をはたしてきたことを知ることができる。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『日本食生活全集47 聞き書 沖縄の食事』は、県内の昭和初期の食生活について地域別に聞き書きをまとめた書。さらに琉球料理の位置づけと調理法の特徴にもふれている。調査地域は、沖縄本島は那覇、糸満、旧美里村、瀬底島の4地域と宮古島、八重山、与那国を加えて土地土地の農耕や漁労の営み、まつりや年中行事の料理、日常の食事づくりを聞きとり再現している。貧しい中にもたくましく、工夫をこらして長寿の食卓を作り上げてきた沖縄人の気概が感じられる。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『私の琉球料理』の著者は昭和37年から4年間琉球料理研究会を主宰し、戦災をまぬがれた資料を集めてその道に詳しい長老や包丁人をたずねて昔の味をさぐり、試作を重ねて出来上がったのが本著である。琉球料理を学ぶ教科書となる一冊である。
汁物からご飯物、煮物、イリチー、チャンプルー、揚げ物、酢の物、和え物、保存食、行事料理、菓子に至るまで150品の作り方が美しい写真付きで紹介されている。琉球料理の歴史的な背景や調理法、食材の特徴もていねいに解説している。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『暮らしの中の栄養学-沖縄型食生活と長寿―』尚弘子著。沖縄の伝統的な食生活を栄養学の視点から科学的に検証し沖縄の人々が食べてきた食材や調理法には先人の知恵と長寿の秘訣があったことを示している。
著者の米国留学時代の栄養学との出会いや沖縄の食材昆布・豆腐黒砂糖を使った動物実験の様子は大変興味深い。私自身はこの本を折々くり返し読んでその都度原点にもどって考えるいしづえとしている。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『琉球菓子』安次富順子著。著者は先に出版した『琉球王朝の料理と食文化』では冊封使饗応料理、王朝菓子、東道盆、清明祭の重詰、五段の御取持などを自ら試作し写真付きで紹介している。
本著では王朝菓子に加えて庶民のお菓子の作り方を写真付きで紹介している。文献から113種の菓子資料を得て材料、分量、熱源、着色料を調べてわかりやすく分類している。作り方は琉球菓子の職人や古老への聞き取り、さらに日本の江戸時代の菓子、中国の菓子、南蛮の菓子の文献調べを通して再現した労作である。
私も本著を参考にして水山吹と丁字餅を作ってみた。分量、作り方が記されているため仕上げることができた。色鮮やかな水山吹、丁字を使った丁字餅等は現代の菓子として充分楽しむことができることから今後多くの方々の活用が期待される。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『沖縄の行事料理』には、年中行事と人生の祝い行事が料理とともに紹介されている。行事のいわれも要点をおさえてわかりやすく記されているので若い方々にも利用してもらえる。バッグに入るコンパクトな大きさも魅力のひとつである。
長年琉球料理の指導にたずさわってきた著者は近年伝統料理離れが進んできたことを憂い、親と子が一緒になってユンタク(語らい)しながら行事料理を作って食べる食文化の継承の大切さを語っている。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます

『沖縄が食べてきたもの』は、「私たちの暮らしの中でいちばん大切なこと。それは毎日の食事です」という言葉ではじまる子供たち向けの楽しい絵が満載の本である。著者は歴史家の上里隆史さん。貝塚時代のシャコガイやサザエを食べていた頃から現在のタコライス、ポーク卵まで紹介されている。
私たちに身近なイモ、サトウキビ、豚、昆布、かつお節の歴史は親子で一緒に読んで語り合うことでおいしさと歴史に対する興味がふくらむことでしょう。

この本の全国各地の図書館所蔵状況を確認できます