復帰と文芸を知るための
10冊
選定書籍一覧
(大城 貞俊・選)
沖縄を生きる思想と言葉のチカラ
日本国の最南端にある沖縄はいつの時代も過渡期だ。先の大戦からすでに76年が経過したが平穏の日々は少なかった。終戦直後の27年間は国家間の戦後処理によって亡国の民として米国の統治下に置かれた。1972年の日本復帰後から今日までも国家戦略によって軍事基地の島としての役割を余儀なくされている。多くの県民の平和の島としての復帰の願いは実現されず今なお新基地建設が強行されている。
平和を希求する闘いは沖縄の歴史が生み出した必然的な願いでもある。沖縄戦では県民の三分の一から四分の一の人々が犠牲になった。この拠点から死者たちの視線を有し未来の沖縄を問い続けたのだ。人間や国家を相対化し、命の尊さが認識され、絶望から希望を模索する再生力が試されたのだ。
文学の営みはこの特異な歴史から無縁ではない。むしろ目を逸らさずに対峙してきた。沖縄を生きる思想と言葉の力が試されたのだ。それゆえに沖縄文学の特質もまた際立っている。「日本文学」を相対化し内部から揺り動かす作品への挑戦である。例えば沖縄線の記憶の継承、政治の圧力や基地被害など困難な時代に対峙する倫理的な作品の創出、基地あるがゆえに外国人との交流を描く国際的な視点、特異な歴史から国家や個人を相対化し沖縄と自らの自立を問うアイデンティティの模索、そしてシマクトゥバを文学作品の中に取り入れる挑戦的な試みなどがなされてきたのである。このことをジャンルごとに10の作品で考察してみたい。もちろん個人的な読書歴から浮かみあがってくる作品である。

大城 貞俊 (おおしろ・さだとし)
1949年大宜味村生まれ。詩人、作家。元琉球大学教授。
沖縄タイムス芸術選賞大賞、沖縄タイムス教育賞、山之口獏賞など受賞。主な著書に小説「椎の川」「一九四五年 チムグリサ沖縄」、評論「抗いと創造‐沖縄文学の内部風景」ほか。


日本国と清国の間に翻弄される琉球王国の人々の苦悩を描いた作品だが、沖縄の歴史を顕示し現在に繋がる射程をも有している。沖縄初の芥川賞作家となった大城立裕による、沖縄を生きた作者の記念すべき一冊だと言えるだろう。

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復帰前の過酷な米軍統治の時代を少年の眼から描いた作品。「沖縄」から「オキナワ」へ変貌する父祖の土地を嫌悪し、無垢な少年がオキナワへの憎悪をたぎらせる少年へと変貌する。作品で使用されるシマクトゥバも話題を呼んだ。第66回芥川賞受賞作品。

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芥川賞作家である又吉栄喜による初期代表作の一つ。戦争の記憶に苛まれる韓国人やウチナーンチュを登場させながら、戦争で傷ついた人間性の回復が困難で不可能であることを示した象徴的な作品。第4回すばる文学賞受賞。

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沖縄戦の記憶の継承の仕方への警鐘である。記憶を改変し捏造していないか。足がスブイ(冬瓜)のように膨らみ親指から水滴が垂れるシュールな手法を用いて現在の沖縄を鋭く問いかけた。第117回芥川賞受賞作品。

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従軍記者として沖縄戦の戦場を彷徨った牧港篤三の視点から紡がれた言葉が胸を抉る。戦争を生きることは「生命の曲芸だ」とした作者の沈痛なレクイエムとなっている。版画は生涯にわたり沖縄を描き続けた儀間比呂志による力強い作品。

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「ひめゆりの学徒」を引率して戦場を彷徨った作者の鎮魂の思いを短歌に託した歌集だ。体験者の悲しみは人間の根源的な悲しみに昇華され、生きることの意味と責任を問い続ける姿勢には戦争の悲惨さが浮かび上がってくる。

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戦前から戦後までの県内、県外、海外までの物故者をも含む作家の俳句作品を網羅した画期的な大著である。収載者数308人、収載句数1万句を超える。
巻末には「沖縄俳句年表」を掲載。一人の俳人による俳句への愛情、情熱がほとばしった著書だ。

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戯曲「人類館」は明治期の大阪万国博覧会でアイヌ人や台湾高砂族の人々と共にウチナーンチュを展示したという実際にあった事件を題材にした。沖縄やウチナーンチュへの差別を、強烈な風刺とユーモアで反転させた。

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復帰前の西表、与那国、波照間、竹富、鳩間・・・スポットの当たることの少なかった離島を舞台にしたエッセイで、権力によって隠蔽される歴史や庶民の暮らしに丁寧に寄り添って描いている。強い共感を覚える一冊だ。

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沖縄ならではの戦記で生死の境を歩いた人々の姿を描いた作品。初版は戦争の傷跡もまだ癒えぬ1950年。生存者から聞き取りを行い、住民側からの沖縄戦の記録としてもっとも早い時期に世に出た。その後も版を重ね、2001年に第10版が出版された。

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