空手を知るための
10冊
選定書籍一覧
(宮城 篤正・選)
琉球王朝時代には美しい多くの文化が華開いた。その一つに徒手空拳のティー(唐手)があった。古くは武術の性格上、秘伝で口伝が多かった。明治30年代に唐手は学校教育の中で体育として正式に採用され、県内そして県外へと広く普及発展する。名称も唐手から空手へと変更された。
沖縄を発祥の地とする沖縄空手は今や世界の多くの国や地域に1億3千万人の愛好家がいるといわれる。来年、東京で開催される「2020年東京五輪」で空手競技が正式種目として登場する。昔から沖縄空手関係者の夢が正夢となり、沖縄・日本の選手たちはメダル獲得を目指して日夜、猛稽古に励んでいる。
沖縄が世界に誇る空手の歴史や理論を探求するための空手本が多く出版されてきた。その中から10冊を選び紹介する。

宮城 篤正 (みやぎ・とくまさ)
1939年浦添市生まれ。
沖縄県立博物館学芸員を務めた後、浦添市立図書館館長、浦添市美術館館長、沖縄県立芸術大学学長を歴任。
沖縄空手師範。
著書に『空手の歴史』など。
解説
現在、琉球古武道も沖縄空手同様に大いに世界に羽ばたいている。今回取り上げた空手本は割合に古い文献を紹介したが、昨今では若い研究者の台頭が著しい。「沖縄空手」新時代の今日、「沖縄空手会館」を拠点に世界に発信することでますます多くの空手修行者・愛好家が来沖するであろう。そこで流派の壁を越えて沖縄空手の精神と技を科学的かつ理論的に究明された空手本が求められる。新しい空手本が今後も出版されることを大いに期待したい。


富名腰義珍『琉球拳法唐手』は今から97年前に東京で出版された唐手本の嚆矢である。発行の契機は1922年4月、文部省が主催する第1回運動体育展覧会のために上京し、唐手の説明並びに演武したことにある。その頃、唐手に関する教本が1冊もなく、多くの要望を受けての出版であった。同著には糸洲安恒直伝の唐手がほぼ当時のまま記録されていると考えてよい。しかし、これ以降に多くの著作があり、大都会での指導普及を図るには時代の空気と共に技や型名等が大きく変容する。富名腰(船越)の代表的著作『空手道教範』(1935年初版)の自序で「十余年間における研究と体験によって改められた技や名称も多く(以下略)」とある。船越が東都で伝えた沖縄空手はついに「松濤館流」の誕生となった。

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本部朝基『日本傳流兵法本部拳法』には『沖縄拳法唐手術組手編』(1926年発行)と『私の唐手術』(1932年発行)の2冊が収録されている。いずれも希覯本で研究者でもめったに現物を手にすることはない。
著者の本部朝基(愛称本部サールー)は武勇伝の多い唐手家である。組手編は「自序」に始まり「唐手の意義及び起源」等手短な記述があり、注目すべきは16ページからの本部自身による実技、「巻藁の突き方」(第1図から第4図)、第5図以降第36図までは組手写真におのおの説明がある。また『私の唐手術』には本部が最も得意とした「ナイハンチ初段」の型が収録されている。

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三木二三郎・高田瑞穂『拳法概説』は、東京帝大唐手部員三木と幹事高田の2人が東都での指導や練習に種々の疑義を抱き、その解明のため、1929年の夏休みを利用して琉球に渡る。そして幸運にも当時の大家、専門家から聞き取りや実技指導を仰ぎ、その成果をまとめた『拳法概説』の初版(ガリ版刷り)が1930年1月にが刊行される。また、同年9月には再版活字本を発行する。再版に際してグラビア8ページの追加、そして付録に第4章と研究余禄が増補されている。また帝大式拳法試合道具が創案され、その道具着用の拳法試合がグラビアで紹介されている。

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仲宗根源和『空手道大観』は豪華本で内容には今では失われた貴重資料満載である。口絵の空手道写真集は大家の演武写真の他すべて得難い写真資料である。中にも注目すべきは糸洲安恒の「唐手十ヶ條」(全文)や花城長茂の「空手組手」(1905年8月)その他口絵だけでも空手研究には欠かせない資料ばかりである。また「空手道基本型(第1段から第12段)」(1937年制定)は中学校に武道が必修とされた今日、改めて教材として見直し活用されることを期待したい。

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長嶺将真『沖縄の空手道』は戦後沖縄発の本格的な空手本である。長嶺将真は1947年「松林流」を名乗り、空手の形18種目を実演する長嶺自身の写真で構成されている。同著の前半には先人の遺訓などの記述もある。

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宮城篤正『空手の歴史』は長年にわたる調査研究の成果に基づいて客観的な記述がユニークである。戦後の限られた資料を渉猟して、一流一派に片寄らず沖縄空手全般に目配りしつつ全容解明に努め、分かりやすい解説・資料も豊富に盛り込んでいる。

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金城裕『唐手から空手へ』は、著者の長い唐手人生の中で常に唐手の実像の探索に情熱を燃やし、文献と実技を照合し、各章ごとに結果を導き出す。また「唐手とは何か」の問いに対して、14の型の枠組み、すなわち首里手から選抜された七つの型と、新しく教育格技として糸洲安恒創案の七つの型が「学校唐手」である。従ってその他の流派の型は「学校唐手」には一切含まれていないと論破する。しかし、この金城説の根拠となる資料は確認できず、また実際の空手普及の状況とは明らかに差異がある。

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宮城長順稿『唐手道概説』の冒頭は「唐手とは何ぞや」で始まる(一)緒言、(二)唐手渡来に就いて、(中略)(八)唐手指導方法で構成され、手短く、的確な文章は明解で、しかも極めて資料価値は高く、小冊子であるが取り上げた。

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高宮城繁・新里勝彦・仲本政博『沖縄空手古武道事典』は10人の編集委員と多くの研究者・空手古武道関係者の執筆協力を得て、沖縄で初めて刊行された本格的な事典である。空手編・古武道編・人物編・資料編で構成された745ページの大冊である。沖縄空手が世界中の多くの国や地域に普及発展している現在、同事典の果たす役割は大きい。

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平信賢『琉球古武道大鑑』乾之巻は、琉球古武道の第一人者が戦後の復興期に発展する空手界に比して衰退する古武道の現況を憂い、なんとか盛り上げようと孤軍奮闘する中で『琉球古武道大鑑』(全5巻)は計画された。1964年8月、乾之巻が刊行されたものの諸般の事情で次巻以降は未刊に終わる。平信賢の死後、門弟の一人井上元勝『琉球古武道』(全3巻)が刊行され、平信賢が構想した琉球古武道すべての型が記録されている。

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