組踊を知るための
10冊
選定書籍一覧
(鈴木 耕太・選)
今年は組踊の初演から300年の節目である。各地で上演イベントなどが盛り上がっているが、これまで発刊されてきた組踊関係の書籍を概観し、初心者向け、実演家向け、一般・研究向けの三つに分けて紹介したい。
組踊は琉球古典芸能というイメージが強いが、琉球文学の劇文学という側面を持つ。従って、作品そのものを紹介することに主眼を置いたもの、実演家や上演の際の演出・表現に主眼を置いたもの、そして台本や歴史など、研究に関することに主眼を置いたものなど、本もさまざまある。
しかしながら、組踊だけをテーマにした書籍は他の芸能ジャンルに比べて少なく、多くは琉球芸能全体(琉球古典芸能や琉球古典音楽、民俗芸能など)の中で組踊を取り扱っている書籍が目立つ。今回は組踊を中心に紹介している書籍を組踊研究者として選ばせていただいた。断腸の思いで掲載できなかった書籍がある事をお断りしたい。

鈴木 耕太 (すずき・こうた)
1979年読谷村生まれ。
県立芸術大学大学院・芸術文化学研究科修了。
同大学付属研究所講師。
専門は琉球文学・文化学。


『沖縄学習まんが 組踊がわかる本』は、朝薫五番をはじめとする組踊の物語を漫画で紹介したもの。ⅠとⅡが発行されており、Ⅰでは「組踊とは何か」「組踊の特色について」「地方に広まった組踊」が説明されており、小学校高学年から楽しく読める内容である。Ⅱには「花売の縁」や「手水の縁」などの代表作が収録されている。

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『週刊人間国宝』52[芸能・音楽 組踊5]は2007年当時の人間国宝5人の芸歴や人となりを紹介した雑誌。それ以外に池宮正治と大城學がコラムを執筆している。どちらも一般向けに分かりやすく書かれている。また、各人間国宝の芸に対するひたむきなお人柄や、その人生などが垣間見られ、琉球芸能を身近に感じる事ができる。

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宜保榮治郎著『組踊入門』は書名からも分かるように、著者が「いわゆる一般の方に分かりやすく書いた入門書」として発刊した。内容は組踊五番に加え「手水の縁」「花売の縁」「万歳敵討」のあらすじと台本本文、そして逐語訳が記されている。巻末には「組踊の歴史と様式」「組踊の概要」がまとめられ、資料としても活用できる、まさに初心者向けの良著である。

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琉球新報社・沖縄芸能連盟編『朝薫祭 組踊創作260年』は書籍ではなく、1977(昭和52)年6月に開催された舞台のパンフレットである。本書にはその時上演された組踊の「演出メモ」が、初代親泊興照(執心鐘入)、初代宮城能造(銘苅子)、金武良章(二童敵討)によって記されている。名優たちの演出方法を学ぶことができる貴重な資料であると言える。

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『沖縄多良間島の組踊』は国の重要無形民俗文化財に指定されている多良間島の「八月踊り」に供される組踊を紹介したものである。組踊は宮廷芸能だけでなく、沖縄各地で現在でも大切に伝承・上演されている。地域の組踊を扱った著書が少ない中、本書は多良間に伝承される「忠臣仲宗根豊見親組」「忠孝婦人村原組」「忠臣身替」「多田名組」の4作品の組踊写本の影印と翻刻、そして上演写真が掲載されている。

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大城立裕著『花の幻―琉球組踊十番』は、作家である著者が手がけた「新作組踊」の作品集である。作品の後には「エッセイ」が掲載され、作品のヒントとなる出来事や考え方が記されている。本文は組踊の詞章と音楽・歌詞(琉歌)が上段に、下段にその逐語訳が配されており、組踊の詞章の意味が理解できない者でも内容が分かるようになっている。今後の実演家たちによる新作組踊作品集が発表されることも祈念して、一読していただきたい書である。

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伊波普猷編『校註 琉球戯曲集』(復刻版)は、序文に折口信夫、付録には知花朝章、真境名安興、末吉安恭、太田朝敷、東恩納寛惇といったそうそうたる研究者たちの組踊論考が収録されている。
本文は1838年に行われた尚育王冊封の際に上演された琉球舞踊と組踊、御冠船芸能の翻刻である。これだけまとまった前近代の資料はなく、資料と研究論文がまとめられた著書は組踊研究史上、本著をおいて他にない。組踊研究をする際には必携の本であると同時に、実演家や一般の方には王国時代の琉球芸能の一端を垣間見ることもできる。

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『沖縄芸能文学論』は、池宮正治による本格的な芸能論を集めたものである。琉球芸能を文学の視点から捉え、さらに歴史資料などを基にして、これまでの芸能論から一歩、新たな学問の領域に押し上げた名著と言える。琉球古典芸能がどのように生まれ、そして「古典」はどのように変容しながら伝承されてきたのか。このような池宮のまなざしは、現在の琉球芸能を研究する上で、基本的な考えとなってきている。
特に「Ⅴ組踊と歌劇」では組踊の発生論から歌劇の誕生と発展までを論理的に示している。ここで池宮は単に組踊だけを研究対象とはせず、次世代に誕生する新たな芸能との関係を示し、琉球芸能がどのように生まれ、発展するのかを示唆している。

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矢野輝雄著『組踊への招待』は、組踊の発生、王府の組踊と地方の組踊、組踊の約束事など、さまざまな視点から解説されている。筆者は大和芸能に造詣が深く、組踊と大和芸能との比較や影響関係について、詳細な資料とともに論が展開されており、読み応えのある一冊である。
第2部では21の組踊作品の詳細な作品鑑賞が記されており、見どころや作品のテーマなどが示されている。組踊を鑑賞したことがある人も、これから鑑賞する人へも分かりやすく、また魅力的に説明されている。

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犬飼公之著『琉球組踊 玉城朝薫の世界』は、それまでの組踊研究を俯瞰し、「劇文学」という視座に立って組踊を研究したものである。組踊の創始者である玉城朝薫の家譜や周辺資料を中心に、どのような意識を持って作品を創作したのか、それぞれのテーマはどのようなバックボーンから生み出されたのかを追求している。筆者は朝薫の創作した組踊をあくまでも「文学作品」として捉え、「作家」朝薫が表現した文学性を読み解こうとしている。
芸能として研究される組踊を、劇文学として捉えることで、組踊の新たな魅力を引き出そうと試みた良著と言える。

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