沖縄の写真集を
知るための10冊
選定書籍一覧
(新里 義和・選)
インスタグラムで#沖縄を検索すると7,515,677件(10/15現在)の投稿が瞬時に現れる。2018年インターネット人口はついに40億人を超え、世界人口の過半数に達した。出現する写真は、もはや天文学的数だ。
身近な光景を気軽に撮影し、多くの人とシェアし、写真を日々あふれるほど見ることになった現在のスマホ環境は、写真による世界とのコミュニケートを誰もが手にした時代だ。言い換えれば、誰もがプロの写真家になれる時代である。だが一般的に「写真」を語ることはそう容易ではない。心を揺さぶる写真は何が違うのだろう?その秘密を知るための10冊という視点で今回のセレクトを行った。
解説
1826年に現存する世界最古の写真「ル・グラ 窓からの眺め」がフランスのニエプスによって撮影され、ダゲレオタイプとして商品化されたのが1839年。その14年後にはペリー艦隊に随行した写真家ブラウン・ジュニアが那覇の地元民を撮影した。写真機が商品化して179年の歴史の中で沖縄は幾人もの写真家あるいは美術家を魅了し被写体として記録されてきた。その記録は、単に通過者としての好奇の眼差しもあれば、沖縄に生涯を傾けた愛情深い眼差しもある。その眼差しの強さを最初の鑑賞ポイントとして鎌倉芳太郎以下4作品を紹介した。また、2つめの鑑賞ポイントとして編集を視点に、東松照明以下4作品を紹介している。さらに、最近の話題作家として2作品を紹介し、計10冊とした。
写真は連続する時空を1点に集約し切り取る。この凝縮し、単純化する点に写真の本質があり、絞り込まれていく過程で写真家の世界観や人生観という思想が刷り込まれる。さらにそれらを束ね、その世界観を明確にするのが編集という作業である。編集により印象がガラッと変わる写真を見比べて頂きたい。
最後に、沖縄には今回紹介出来なかった多士済々な写真家がいることを追記する。沖縄と写真はトランプである。その心は・・・。答えは、切っても切れない関係である。

新里 義和 (しんざと・よしかず)
1961年那覇生まれ。99年から10年間県立真和志高校にて写真の指導に携わり写真甲子園県勢初優勝に導く、その後09-14年まで県立博物館・美術館に勤務し東松照明、森山大道等の企画展を担当。
現在、八重山商工高校勤務。

筆頭は鎌倉芳太郎『沖縄文化の遺宝』だ。沖縄県女子師範学校へ美術教師(当時23歳)として赴任し琉球文化に深く魅せられ、その研究に生涯を捧げた。写真は彼が26歳から29歳の時に撮影した首里城を始めとする建造物および彫刻、琉球王家ゆかりの絵画、工芸品等々である。
風情のある美しい首里の風景、固有の文化と高い芸術性を感じさせる絵画や工芸品の数々は、当時の世界最高水準の機材で撮影された。今で言う8Kスーパーハイビジョンカメラだ。その映像は琉球処分後、明治政府による皇民化政策により琉球文化は下等なものとして蔑まれ、壁が朽ち廃墟同然になっている首里城の様子も克明に写し出す。しかし、彼の眼差しは単なる記録(新即物主義)に収まらない。貴重な文化的遺産としての首里城が敬意を持って立ち上がり、我々を感動させる。若い青年美術教師がこれほどの装備を手に詳細に記録できた秘密は、与那原恵『首里城への坂道』に詳しい。撮影された多くの遺宝は沖縄戦で灰燼となってしまったが、貴重なガラス乾板1,229枚他多くの資料が遺族により県立芸大に寄贈され、後世に伝えられた。

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次に紹介するのは、坂本万七『沖縄・昭和10年代』。モンゴル800のCDジャケットに戦前の写真が使われているが、その出典元である。坂本は柳宗悦の琉球民芸調査に随行した写真家の一人で、もう一人は土門拳である。私は駒場の日本民芸館が大好きで若い頃から東京へ出向くと必ず立ち寄ったものであるが、そこの木の匂いやどこか懐かしくホッとさせる空間が、柳や坂本の愛した沖縄の戦前の時空間と同質なのではと感じさせる一冊である。戦後73年が経過した今、近代的な豊かさは手に入れたが、戦前の町並みの美しさには、失われた真の豊かさを感じる。
また、同時代に生きた沖縄の写真家として忘れてならないのが𤘩宮城昇だ。鎌倉が沖縄で首里城を撮影している頃、上京し開校したての写真学校で最先端の写真技術を学び、その後那覇でモダンな写真館を開設している。柳の沖縄調査の折には写真家として同行もしたが、戦争は若き沖縄の才能も多数奪っていった。

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ユニークな関連本として『大琉球写真帖』も参考にしたい。石川真生を代表に10名の写真家や文化人、美術家で編集され、素材となった写真は一般の各家庭に眠る古い写真だ。戦争によって失われた記録を取り戻そうという試みで集められた5,000枚の写真1枚1枚には、それぞれの物語が刻まれている。

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眼差しの強さとして外してならないのは、比嘉康雄『神々の古層』全12巻だ。比嘉は1968年B-52の墜落事件を契機に警察官から写真家に転身し、『生まれ島沖縄』のデビュー作以来、生涯沖縄を見続けた。琉球弧の祭祀を記録した全12巻からなる本書は、時代と共に変化し失われていく祭祀の本質を詳細に記録した後世に残る偉業だ。

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東松照明『新編 太陽の鉛筆』は、伊藤俊治と今福龍太による編集で、すでに絶版となった写真集が蘇った。東松は生前過去の写真をプリントする際、その時代ごとに新たに生まれ変わるかのようにトーンや時にはトリミングさえも変化させてきた。その晩年の東松の思想に忠実に編集された。基本的な構成は同じでもこれほど見え方が変化する。晩年を知る一冊となる。

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石川真生の『熱き日々inオキナワ』は、1982年に出版された幻のデビュー作「熱き日々inキャンプハンセン!!」の待望の再編だ。黒人の人間味に引かれ、自由に生きたいと願った女たち。差別や偏見をものともしない女たち(自身)の生き方の原点となる作品である。アメリカ在住の編集者による新バージョン『赤花 アカバナー 沖縄の女』も出版され益々国際仕様となった。

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平敷兼七『山羊の肺』は、若い編集者との出会いで形になった1冊であったが、家族が編集に参加し再編した本が『父ちゃんは写真家 平敷兼七遺作集』である。家族の絆が志半ばで逝った写真家を今に生かしている。

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沖縄写真家シリーズ『琉球烈像』全9巻は、9名の沖縄を題材とする写真家を紹介する。第4巻、大城弘明『地図にない村』は戦後未だに残る戦争の痕跡を記録する。弾痕が生々しく残るヒンプンの前で屈託なく笑う小さな男の子の写真が印象的だ。

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最後に若手の写真家として、2014年に第40回木村伊兵衛賞を受賞した石川竜一『絶景のポリフォニー』を紹介する。同年1月に県立博物館・美術館で行われた森山大道「終わらない旅 北/南」展のワークショップにまだ無名の石川が参加し写真を見た森山に「嫉妬するね。」と言わしめ、戦後日本を代表する路上スナップの名手に絶賛された。中心を持たない「等価」という視点。自分の身の回りで起こっている虚飾のない全ての現実を対象とする点で森山と石川は類似する。
他の若手として、石川直樹、豊里友行が独自の路線で人気のある作家だ。

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最後に若手の写真家として、2014年に第40回木村伊兵衛賞を受賞した石川竜一『絶景のポリフォニー』を紹介する。同年1月に県立博物館・美術館で行われた森山大道「終わらない旅 北/南」展のワークショップにまだ無名の石川が参加し写真を見た森山に「嫉妬するね。」と言わしめ、戦後日本を代表する路上スナップの名手に絶賛された。中心を持たない「等価」という視点。自分の身の回りで起こっている虚飾のない全ての現実を対象とする点で森山と石川は類似する。
他の若手として、石川直樹、豊里友行が独自の路線で人気のある作家だ。

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