沖縄の美術を知るための
10冊
選定書籍一覧
(翁長 直樹・選)
解説
琉球・沖縄美術研究のトピックとしては、首里城公園を管理する沖縄美ら島財団が依頼し、東京芸術大学と東京文化財研究所が協力した、2014年と2017年に公開された御後絵(尚育王、尚灝王)の復元事業が挙げられる。国王の死後に描かれた御後絵は、沖縄戦の戦禍に巻き込まれ、現存資料は確認されていない。鎌倉芳太郎氏が戦前、10人の国王の御後絵を撮影し、そのモノクロ写真やガラス乾板が残されているが、X線写真等を駆使した調査、琉球王の復元は画期的な一歩である。もう一つ特筆すべき事業として東京文化財団による琉球絵画の精密な光学調査が進んでいる。
近代洋画については、やはり戦禍を被り、作品が希少で、作品の所在調査が優先されるべきで、テキストによる研究もこれからといえる。現在進んでいるのが、現存する関係者の生の音声・姿のアーカイブである。将来貴重な一級資料となるであろう。
戦後揺籃期の美術をいま一度全体を見渡してその成り立ちを探る研究など、琉球・沖縄美術の日本・アジアの美術史の中で、その独自性を検証する時期に来ている。

翁長 直樹 (おなが・なおき)
1951年具志川市(現うるま市)生まれ。
沖縄県立博物館・美術館元副館長。
美術評論家。

まず沖縄の美術を網羅した、欠かせない重要な4冊を紹介する。
近世・近代を通観する美術が記述された書籍はいまだ少なく、充実した画集としては管見の限り、『琉球絵画展~琉球王朝から近代までの絵画~』の他にはいまだ出版されてない。「琉球絵画」という名称は美術史学上正式なものではなく、当時そのジャンルの裏付けが問われていた。しかし現在ではその名称で流通するようになった。

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『沖縄美術全集』全5巻別巻1は沖縄美術全般について、各ジャンルごとに構成された大型本である。ちなみに第4巻は絵画・書、第5巻に彫刻が入っている。この全集は1980年代に複数出版された大型画集の代表ともいえる企画で、このような企画は今後しばらく出版されないことが予想される豪華本である。

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『すぐわかる沖縄の美術』は絵画、彫刻、建築、工芸、デザインまで網羅し、多くの執筆者が関わっている。簡便でいつでも手元に置いて参照できる琉球・沖縄美術のガイドブックとなっている。

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『沖縄文化の軌跡1872-2007』は明治の廃藩置県から、2007年沖縄県立博物館・美術館の開館時までの美術を中心とした文化の流れを構成したもので、沖縄が「表現」を獲得して自立していくまでが語られる。各ジャンルごとの論文は読み応えがあり、時代を映すものとなっている。

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美術書籍6冊を紹介したい。戦後美術の最大の出発点となった美術家の共同体「ニシムイ」について。『わが心の美術村にしむい 幻の西森美術館』はニシムイに通い、絵画の教えを受けた浦崎彦志、交流のあった評論家仲井間憲児の共著。
個人出版でありながら、700ページに及ぶ。500本余のインタビューテープから書き起こした中身は美術家の生の声が反映され、未公開作品なども収められている。戦後美術のスタートを知るには格好の著書である。

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沖縄は移民の割合が全国で最も高いと言われる。戦前、南洋群島には多くの沖縄人が移住し、街ができるほどであった。『美術家たちの「南洋群島」』展図録は日本の植民地南洋群島を美術で語るものである。儀間比呂志がテニアンに青年期に渡航し、そこで創作の原点ともなる沖縄芸能に出会い、土方久功、杉浦佐助という美術家に師事する。3人を軸に当時の南洋が日本内地の美術家に与えた影響が描かれている。

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『内間安瑆 色彩と風のシンフォニー』は移民2世として北米で育ち、青年期を日本で学んだ画家の作品展の報告書である。戦後は版画家として米国で大きな足跡を残した。造形作家として日本と米国の融合を目指した、技術の工夫の丹念な紹介と思想に迫る。本の装丁も秀逸である。

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現在の美術家たちのインタビュー集『アーティストのことば』(代表大山健治)は美術家の生の声をアーカイブとしてインターネット、書籍を通じて紹介する進行形のプロジェクトである。作品鑑賞の手助けになる他、作家の生き方に触れることができる。ウェブ上で公開されている沖縄の美術家の動画としては唯一のものであり、見事な映像である。今後の継続が期待される。

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日本美術史の中の沖縄美術としては『美術の日本近現代史 制度・言説・造型』がある。その中に「沖縄の美術~現在まで」(小林純子)と題して沖縄美術の全般の概要が語られる。短い要約ながら、日本美術史の中での記述は戦後初めてとなる。

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戦前期にすでに世界美術史の中の2巻、琉球美術として、『世界美術全集』第21巻(第十七世紀南欧北欧 サラセン・琉球及び徳川時代1)と、第24巻が出版されており、前者に伊東忠太「琉球芸術総論」、鎌倉芳太郎「琉球美術各論」があり、建築、御後絵等が紹介されている。後者は琉球建築が掲載されている。発刊当初の著者たちの意気込み、戦前期の沖縄への熱視線が感じられる。戦後そのような企画がないのは、ひとえにすべての文化財が戦渦に巻き込まれ消失したからである。

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